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2005年11月15日 (火)

【演】千両みかん

みかんといえば、上方落語のこの演目。
みかん一個が千両、という話。

船場の大店(おおだな)の若旦那が臥せってしまう。病名がわからない。
恋わずらいか、と心配した大旦那が番頭を使って若旦那の気持ちを聞くと・・・なんと、みかんが食べたい一心で寝付いてしまったという。
「みかんなんぞお安い御用」と、うっかり安請け合いした番頭。
夏の盛りのことである。いまとちがって、真夏にみかんなんぞあるわけがない。

大旦那に、「あると言ったみかんがなければ、倅はがっかりして死んでしまう。主殺しは火あぶりの刑」と脅され、大阪中をさがしまわる番頭がこっけいでもあり、可哀相でもある。

どこへ行っても「そんなもん、おまへん」と言われて、そのうち磔(はりつけ)台が目にちらつき、わけがわからなくなった頃、「天満のあかもん市場に行きなはれ」と言われる。
〝あかもん市場〟とは、〝赤物〟すなわち果物専門の市場。
〝あおもん〟は、野菜だそうだ。
天満には、一年中みかんを商う問屋があったのだ。
もちろん、みかんの季節に仕入れて蔵に保存しておく。
ところが、暑い盛りのこととて、その店の蔵にも満足な形のみかんは、たった一つしか残っていない。

果物問屋は事情を聞くと、代金はいらないから一刻も早く持っていきなはれ、と言ってくれたのに、番頭が「そうはいかない、金に糸目はつけないから売ってくれ」と口をすべらしたばっかりに、果物問屋の方が意地になり、みかん一個に千両の値段が付いてしまうのである。

可哀相な番頭、すごすごと自分の店に戻って大旦那に報告すると、「それは安い!千両で倅の命が助かるのなら」ということに。
めでたく千両で貴重なみかん一個を手に入れ、若旦那の病気も治る。

十袋あったみかんの房の三袋だけ残して、「おとっつあんと、おっかはんと、おまえとで一房ずつ食べておくれ」。
これを手にした番頭。
これだけでも三百両の値打ちがあるのかと考えて、おかしくなってしまう。

「これが三百両!十三の歳から奉公して、来年は別家させてもらうが、その時にもらえる金がせいぜい五十両。ここにあるのが三百両・・・」
番頭、みかん三袋持ってどっかへ行ってしまいよった、というサゲである。


この噺、ぼくは桂枝雀が演じていたテレビ番組(関西系)を録音してあり、何度も聞いた。
何度聞いてもホロリとしてしまう。番頭の気持ちがよくわかるから。
・・・いい話である。

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コメント

僕はまだ落語の世界は、足を踏み入れた程度ですが、やまおじさんの文を読んで、その面白さが見えてきました。それにしても、やまおじさんの文・・かなりのものですね。そしてこの長さ・・・。おそれいりやした!

投稿: 玄柊 | 2005年11月16日 (水) 07時26分

ぼくは、もっぱら上方落語ばかりですが、ひと頃ずいぶんとはまっていました。
レコードや、TV番組、ラジオ番組の録画・録音は山のようにあります。
東京の落語は、どうも肌にあわないので、寄席にはほとんど行きませんでしたが、上方から噺家さんがやって来たときには(枝雀一門会、米朝一門会など)、上野の鈴本演芸場や歌舞伎座まで聞きに行ったものでした。

投稿: やまおじさん | 2005年11月16日 (水) 22時16分

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