【読】五木寛之 こころの新書 (5)
五木さんの 『サンカの民と被差別の世界』 について、続けて書く。
まず、「サンカ」と呼ばれる人たち。
この呼称は、一般的にこう呼んでいるというだけで、地方によってさまざまな呼ばれ方をしているという。
関東ではミツクリ(箕作り)、ミナオシ(箕直し)、東海ではポン、オゲ、四国の一部ではサンガイ、九州ではミナオシカンジン(箕直し勧進)、等々。 (沖浦和光による)
「箕」というのは、竹でつくられた農具である。
【箕(み)】 穀物を中に入れ、上下に振り動かした勢いで、ちり、殻などを吹き飛ばすようにして取り除く農具。 (新明解国語辞典)
この呼称からわかるように、彼らは棕櫚箒(しゅろぼうき)づくりや竹細工をなりわいのひとつとしていたが、泥鰌、鰻、スッポンなどの川魚を捕って暮らしていた。 セブリと称する仮小屋や天幕によって川筋を移動していたのである。
柳田國男が 『「イタカ」及び「サンカ」』 という論考でとりあげ、三角寛という人が「山窩」という蔑称(もとは警察用語)を広めてしまったのも、有名なはなしだ。
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_fcef.html
(柳田国男を読んでみる 2006/3/3)
五木さんがサンカに惹かれていったのは、『風の王国』という小説の構想を練っていた時期。 それ以前も、『深夜美術館』や『戒厳令の夜』で、<移動、漂泊、放浪の民の系譜>に強い関心を示していた。
その後、民俗学者の沖浦和光(おきうら・かずてる)さんに出会い、『辺界の輝き』という対談形式の共著を出していることは、このブログでも紹介した。
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2006/02/post_3dd7.html
(五木寛之と沖浦和光 2006/2/19)
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_4bdb_1.html
(文庫本、要チェック 2006/3/2 沖浦さんの本の紹介)
また、五木さんがこの本で大きくとりあげている、沖浦さんの著作、『幻の漂泊民・サンカ』、『竹の民俗誌』、『瀬戸内の民俗誌』についても、上のブログ投稿でとりあげているので、ご参照いただきたい。
この本で、サンカに関するさまざまな著作のあることを知った。
椋鳩十(むく・はとじゅう)の『鷲の歌』(昭和8年)、福田蘭童の『ダイナマイトを食う山窩』などだ。
この福田蘭童という人、ぼくは知らなかったが、洋画家の青木繁の息子であり、戦前から尺八の天才とうたわれていたが、結婚詐欺事件で逮捕された。 懲役刑に服した後、当時の人気女優だった川崎弘子と結婚。 彼の笛のメロディーをテーマ曲にしたのが、ラジオ番組「笛吹童子」。 彼の息子が石橋エータローだそうだ。 なんとなく魅力的な人物である。
ちなみに、『ダイナマイトを食う山窩』は、その内容が問題になり、三角寛との確執もあったようだ。
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