【読】こころの新書 (9)
五木寛之 「こころの新書」 シリーズ 5 (講談社)
『日本人のこころ 九州・東北 隠れ念仏と隠し念仏』
きょう、読みおえた。
このシリーズ(日本人のこころ)の4冊のなかでも、ぼくにとっていちばん興味深い内容だった。
第一部 「隠れ念仏」と知られざる宗教弾圧
かつて日本がキリスト教を禁止していた時代に、信仰を棄てなかった「隠れキリシタン」のことはよく知られているが、九州南部の鹿児島および熊本、宮崎の一部(薩摩藩、人吉藩) で、三百年にもおよぶ念仏禁制の時代があったことや、「隠れ念仏」と呼ばれる真宗門徒がいたことは、ほとんど知られていない。
五木さんは、その「隠れ念仏」の跡をたんねんに歩いてたどっている。
また、中学生の頃に聞いたという「カヤカベ」という言葉を思いだしながら、「カヤカベ」と呼ばれる「隠れ念仏」衆(表面上は神道の信者を装いながら、一種独特の信仰を守りつづけた人たち)についても、詳しく書いている。
第二部 「隠し念仏」が語る魂の鉱脈
こちらは、東北の岩手地方(盛岡藩、八戸藩、仙台藩)で秘かに伝えられた信仰だ。
江戸時代、飢饉や凶作に苦しみ、つよく救いを求めた民衆が、過酷な宗教統制を行なう幕藩体制と、その末端組織に組みこまれてしまった真宗寺院の両方から、じぶんたちの信仰を守ろうとして「隠し」続けたという。
ぼくのまったく知らなかった世界である。
不思議なことに、この「隠し念仏」は、いまでも秘密結社的色彩を色濃く持ちつづけているために、世間からあらぬ誤解を受けたり、本願寺からも異端、邪宗扱いされているという。
第二部は、ぼくにとって、ことに興味深かった。
五木さんは、実際にこの「隠し念仏」の信者を訪ね、じつにたんねんに調べ、かつ、深く考察している。
柳田國男の『遠野物語』に「隠し念仏」のことが書かれていること。
熱心な法華経信者だった宮沢賢治の家が熱心な浄土真宗であり、賢治のまわりにたくさんの「隠し念仏」信者がいたこと。
賢治が彼らのことを、「秘事念仏の大元締が」という口語詩(『春と修羅 第三集』)に書いていること。
賢治の実家に疎開していた高村高太郎も、「隠し念仏」のことを詩に書いていること。
・・・等々、興味はつきない。
また、五木さんが、民俗学者の赤坂憲雄さんの著作からいろいろ教わった、と書いていることも、うれしかった。
(赤坂さんとは『東北学』という冊子の誌面で対談しているという)
というのも、すこしまえに、ぼくは赤坂さんの 『柳田国男の読み方』(ちくま新書)を読んで、深く感銘したからだ。
→2006年2月11日 【読】読書日誌 柳田国男
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2006/02/post_d63b.html
紹介したいことは尽きないが、この五木さんの本からは、次から次へと想像をかきたてられる。
とても内容の濃い一冊だ。
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