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2006年7月 5日 (水)

【読】加計呂麻島

ずっと気になっていた作家がいる。
Shimao『その夏の今は 夢の中での日常』
 島尾敏雄 講談社文芸文庫 (1988.8)
 巻末に「著者に代わって読者へ」(島尾ミホ)と
 吉本隆明による「解説」がある。
ほとんど予備知識なしで読んだのだが、これが面白かった。
予備知識なし、というのはウソで、じつは吉本隆明さんの著書から、この作家の人となりについての知識はすこしあったし、若い頃、ぼくの友人が読んでいるのを見たりしていた。
そんなこともあって、ずっと気になっていたのだ。

島尾敏雄が人間魚雷の特攻隊長として南の島で敗戦をむかえるという特異な体験をした人であることは、よく知られている。
「出孤島記」 「出発は遂に訪れず」 「その夏の今は」 という三つの小説は連作のようになっていて、この敗戦まぎわの体験を素材にしている。
いつ出撃命令が出るかわからない、死と隣り合わせの極限状況。
隊長だった主人公(島尾敏雄) と島の娘(後に奥さんとなるミホさん)との恋。
出撃準備命令が出てあわや出発(死への旅立ち)というまぎわでの敗戦の詔勅。
そういった、今の時代からはとても想像できない当時の状況が、たんたんとした筆づかいで描かれているが、そのいっぽうで、幻想的な感じもある。
この作家の文章は、どうやらぼくの肌にあっているようだ。
暗くて重い内容だろうなぁ、という先入観があって、ぼくはこれまで敬遠していたのだった。

ところで、この島尾隊長(中尉)のいた特攻隊の基地があったのが、奄美諸島の加計呂麻島(かけろまじま)である。
島尾敏雄の小説の中で、この島の名は固有名詞として出てこない。
どこか南の不思議な島といった想像をしながら、ぼくは読んでいた。

別の一冊、『はまべのうた ロング・ロング・アゴウ』(講談社文芸文庫)所収の、「はまべのうた」のおしまいに作者の付記があり、そこにこの島の名が記されていた。

 (これは昭和20年の春に加計呂麻島でつくりました。
 祝桂子ちゃんとその先生のために)

カケロマとは、なんと不思議な響きだろう。
Shimatabi『沖縄・奄美《島旅》紀行』 斎藤潤 光文社新書(2005.7)
― 以下、この本から引用 ―
 加計呂麻島 一度は訪れてみたい島
加計呂麻島 ときけば、その名を知っている人は大半が嬉しそうに目を細めるだろう。
いろいろな意味で、一度は訪れてみたい憧れの島だから。
ダイバーは、日本で(いやいや世界で)もっとも美しい海がある島というし、文学愛好家にとっては島尾敏雄が特攻隊長として滞在していた島尾文学発祥の島。・・・

琉球弧をなす諸島のなかで、奄美はいちど訪ねてみたいと思っている島のひとつだ。
その奄美大島に寄り添うように、加計呂麻島がある。
その面積77平方キロにたいして、海岸線の長さが148キロと異様に長い。
(お隣の徳之島は、248平方キロ、90キロ)
加計呂麻島は、それほどいりくんだリアス式の海岸線に囲まれている島なのだ。
(上述書の記述による)
行ってみたいな。 いつか。

島尾 敏雄(しまお としお)
1917年4月18日 - 1986年11月12日。横浜市出身。
長崎高商を経て九州大学を繰り上げ卒業。
第十八震洋特攻隊隊長として、奄美大島に赴任。
戦後、赴任地の島の娘であったミホと結婚し、神戸で富士正晴らとともに「VIKING」創刊。
上京して吉本隆明、奥野健男、詩人の清岡卓行らと雑誌「現代評論」を始めるが、妻の病気のため妻の実家がある奄美に帰島。
鹿児島県立図書館奄美分館長などを務めた。
また、カトリック信徒であった夫人の親戚に勧められ、昭和31年(1956年)に奄美の聖心(みこころ)教会で、カトリックの洗礼を受ける。(洗礼名ペトロ)
その後、名瀬市から指宿市西方に住所を移し、鹿児島純心女子短期大学で教鞭をとっていた。
妻は同じく作家の島尾ミホ。
長男は写真家の島尾伸三で、漫画家のしまおまほは孫にあたる。
心因性の精神症状に悩む妻との生活を描いた『死の棘』は小栗康平によって映画化されカンヌ国際映画祭に出品された(審査員大賞受賞)。
作品は主に超現実主義的な「夢の中での日常」などの系列、戦争中の体験を描いた「出孤島記」などの系列、さらに家庭生活を描いた「死の棘」などに大別される。
 ― Wikipediaより ―

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コメント

実は島尾敏雄、かなり前から好きな人でした。茅ヶ崎に彼が住んでいたときは、訪ねていったこともあります。彼にとっては迷惑だったでしょうが・・。

投稿: 玄柊 | 2006年7月 9日 (日) 09時38分

>玄柊さん
島尾敏雄さん、晩年は茅ヶ崎に住んでいらしたのですね。
ネット検索でこんな記事をみつけました。
http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/shimao.main.html

投稿: やまおじさん | 2006年7月 9日 (日) 10時05分

ネット検索は便利なものですね。
こんな本があることも発見。
『島尾敏雄事典』
http://www.bk1.co.jp/product/1779904/review/4642

投稿: やまおじさん | 2006年7月 9日 (日) 10時43分

なるほど、この辞典は面白そうですね。なにもかも、入り込むときりがないのですが、島尾敏雄は気になる人です。

投稿: 玄柊 | 2006年7月11日 (火) 13時45分

この本(島尾敏雄事典)は高価なので、図書館に置いてくれるといいのですが・・・なかなか目にしません。
島尾敏雄さんの『新編・琉球弧の視点から』(朝日文庫)も興味深い内容です。

投稿: やまおじさん | 2006年7月13日 (木) 21時43分

「贋学生」というのが気になる作品で三十数年ぶりに読もうとおもって桑名にもってきていますが まだ読む時間がとれません 島尾の本はほとんど古本屋に売りましたが いつか読み直そうとおもい全集を買ってありますほかに数冊は残してあります 妻に話しておきますので 読みたければどうぞ
リビングルームの壁際の二重になっている書棚の奥の二段目あたりにあります
息子夫婦の中国雑貨だったかの本もあるかもしれません あるいは売ってしまったかも
島尾伸三までは知っていましたが孫が漫画家だったとは知りませんでした

投稿: uji-t父 | 2006年7月17日 (月) 22時04分

>uji-t父 さま
ありがとう。
ぼちぼち、読んでみます。

投稿: やまおじさん | 2006年7月17日 (月) 22時29分

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