【読】山田風太郎 『同日同刻』 (3)
読み終えた。巻末の高井有一(小説家)による解説が、この本の魅力をうまくまとめてくれているので、引用させてもらう。(旧仮名づかい)
<「同日同刻」は、太平洋戦争の最初の一日と、最後の十五日間に、日本、アメリカ、ヨーロッパの各地で起つた出来事、信頼出来る記録にもとづいて再現する試みである。 同日同刻の出来事を、空間の隔たりを超えて対照させる事によつて、見え難い過去の現実が立体的に見えて来る。>
<真珠湾の戦果を知つて、日本国内は沸き立つた。 興奮し、感動した作家の文章がいくつも遺されてゐる。 作家は民衆の「語りべ」だと山田風太郎は言ふが、この日の文章の大半は彼等の名誉になるものではない。 ・・・いづれも強制されて書いたものではない。 ・・・志賀直哉は、文士には安普請の人間が多い、と言つたさうだが、声を揃へて無邪気に万歳を叫ぶやうな現象は、そんな言葉を思ひ出させる。>
「ゆっくり、しかし強くこの宣戦布告のみことのりを頭の中で繰りかえした。頭の中が透きとおるような気がした」 (高村高太郎)
「言葉のいらない時が来た。必要ならば、僕の命を捧げねばならぬ」 (坂口安吾)
「この開始された米英相手の戦争に、予想のような重っ苦しさはちっとも感じられなかった。方向をはっきりと与えられた喜びと、弾むような身の軽さとがあって、不思議であった」 (伊藤整)
敗戦。
レイテ島の米軍捕虜収容所にあって、すでに十日に日本の条件付き降伏表明を知っていた大岡昇平は、のちに憤慨してこう書いた(「俘虜記」)。
「俘虜の生物学的感情から推せば、八月十一日から十四日まで四日間に、無意味に死んだ人達の霊にかけても、天皇の存在は有害である」
著者 山田風太郎の 「戦中派不戦日記」 十一月十二日の項
「余思うに、日本人に天皇は必要である。われわらは八月十五日に於ける天皇に対する戦慄的な敬愛の念を忘れることは出来ない」
高見順 「高見順日記」 (玉音放送を聞く直前に、彼の妻が)
「ここで天皇陛下が、朕とともに死んでくれと仰有ったら、みんな死ぬわね」と言い、自分もその気持ちだった。
・・・考えさせられることの多い、ずっしりと重い一冊だったなぁ。
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