【読】山田風太郎 『同日同刻』 (1)
今年も9月11日が近づいて、またぞろ騒がしくなるんだろうな。
9・11よりも、8・6や8・9のほうが大切だよ。・・・そんなことを考えさせる本だ。
山田風太郎 『同日同刻 太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日』 (ちくま文庫)「最後の十五日 ―昭和20年8月―」 を読み始めた。
8月1日(水) マッカーサーはじめて原爆を知る
8月2日(木) 極秘目標――広島
ここに興味深い記述がある。
テニアン(マリアナ諸島)にいた特別爆撃隊に対する極秘の作戦命令。
予定日、8月6日。
爆撃高度2万8千フィートから3万フィート、飛行速度時速200マイル、爆撃は目測による。
攻撃第一目標 広島市中心部と工業地域
予備第二目標 小倉の造兵厰と同市中心部
予備第三目標 長崎市中心部
<8月9日にトルーマン大統領は、「世界は最初の原爆が広島という軍事基地に投下されたことを心に留めるであろう。われわれがこうしたのは、出来る限り非戦闘員の殺傷を避けたいと思ったからである」と声明したが、それが偽りであることはこの8月2日の作戦命令書を見れば明らかである。> (P.112~113)
彼の国のブッシュ大統領が「9・11」を忘れるな、と言うのなら、ぼくらは、61年前の「8・6」「8・9」を忘れてはいけないのだ。
8月5日(日) 広島の夜空には満点の星
<テニアンでは、その日昼間のうちに原爆攻撃隊長ティベッツ大佐が、自分の搭乗機の操縦席の窓の下に、ペンキで「エノラ・ゲイ」と書かせた。それは彼の母親の名であった。そのとき「日本帝国と天皇ヒロヒトに不運あれ」と落書した者もあった。>
8月6日(月) スベテアッタコトカ
山田風太郎のすごいところは、広島上空のB29搭乗員の様子を、米国の資料を引用しながら冷徹に描いた後、一転して原爆投下直後の地獄図絵を、淡々と語っているところだ。
まるで、映画のシーンを見ているようである。
原民喜や峠三吉の文章・詩も引用されているが、それよりも、名もない人びとの書いた記録が胸をうつ。
「スベテアッタコトカ アリエタコトカ / パット剥ギトッテシマッタ アトノセカイ」
(原民喜 「夏の花」)
8月9日の項の途中まで読んだ。
もうすこし後、8月13日の項に、奄美群島加計呂麻島にいた第18震洋隊長島尾敏雄と、その恋人ミホ(後の島尾夫人)も登場する・・・。
巻末解説(高井有一)のタイトル 「立体化されて迫る過去の現実」 は、山田風太郎ならではの独特の視点を、みごとに言いあらわしている。
これは、いい本ですよ。
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コメント
次期首相とされる某氏が第二次世界大戦の総括を質問されて「それは歴史家に託す」とか言ったとか・・。自分の考えを全く述べない政治家が日本を背負っていく。そんな中で山田風太郎の明晰、爽快さはすごいですね。このところ、父関係のすったもんだで忙殺されていますが、自分に活を入れるためにも是非読んでみます。
投稿: 玄柊 | 2006年9月 8日 (金) 07時23分
>玄柊さん
首都の知事といい、今この国にはロクな者(政治家)はいませんね。
投稿: やまおじさん | 2006年9月 8日 (金) 20時45分