【読】勢古浩爾さんの二冊目
『風の王国』 という長編小説を読み終えたので(読後感はさわやか、しかし、後味が軽い)、目先のかわったものを読んでみようかな、ということで。勢古浩爾 『こういう男になりたい』 (ちくま新書)
すこし前に読んだ 『思想なんかいらない生活』 (ちくま新書)も面白かったが、この本も痛快。
タイトルは男性論のようだが(実際、そうなのだが)、そこいらの軽薄でなんの役にもたたない駄本とはちがう。
なかなか骨のある人なのだ。
ずばずばと気に入らないものを切っていく文章は小気味がいい。
各章の扉に、なぜか石川啄木の詩歌の一節が引用されていて、啄木もいいな、という気にさせられる。
<男とうまれ男と交り 負けてをり かるがゆゑにや秋が身に沁む>
<誰が見てもとりどころなき男来て 威張りて帰りぬ かなしくもあるか>
<こころよく 人を讃めてみたくなりにけり 利己の心に倦めるさびしさ>
<何となく自分をえらい人のやうに 思ひてゐたりき。 こどもなりしかな。>
<大いなる水晶の玉を ひとつ欲し それにむかひて物を思はむ>
<放たれし女のごときかなしみを よわき男の 感ずる日なり>
<あたらしき心もとめて 名も知らぬ 街など今日もさまよひて来ぬ>
ブックガイドとして読んでも、おもしろい本だ。
ちなみに、啄木歌集については――
久保田正文編 『新編 啄木歌集』 (岩波文庫)
啄木に意外と「男」に関する歌が多いのを発見した。
啄木のひたむきさと卑小さを描いた傑作に関川夏央原作、谷口ジロー漫画
『「坊ちゃん」の時代』(双葉社)の第三部『かの蒼空に』がある。
と紹介されていたり。
著者の勢古さんは、若い頃(といっても、三十代後半)に、石原吉郎論を書いたというのも、なにやら好感がもてる。
<大学をでて宙ぶらりんの気分の時期に、自分みたいなおもしろくもなんともない男は、一生女から好かれないだろうな、とおもった。 (略) ジャーナリストになる希望もついえた。 どうしようかと途方にくれた。 とにかく仕事がしたいと思った。 ぼちぼち本を読むことを覚え、わら半紙にすこしずつ埒もない文章を書くようになった。 本を出したいという気持ちはこれっぽちもなかった。 夢でさえありえなかった。 三十代後半に四百枚の孤独な「石原吉郎」論を書きおえたとき、世間ではなんの役にも立たない自信らしきものがすこしついただけであった。 もう「夢」がなければ、自分のいまいる「一所」で「懸命」にやることだけが残された。> (P.128~129)
勢古浩爾(せこ・こうじ)
1947年大分県生まれ。明治大学政治経済学部卒。
現在、洋書輸入会社に勤務。1988年、第7回毎日21世紀賞受賞。
市井の一般人として「自分」が生きていくということの意味を問い、独自の思考を、まさに「ふつうの人」の立脚点から展開し続けている。
著書に『中島みゆき・あらかじめ喪われた愛』(宝島社)、『自分をつくるための読書術』(ちくま新書)。
― 『こういう男になりたい』 (ちくま新書/2000年5月) 著者紹介から転載 ―
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コメント
やまおじさんの関心領域をすべてカバーはできませんが、今年も知らないことをたくさん教えていただきました。ありがとう。自分の関心分野だけでアップアップでもありましたが、一人の人間だけでは客観的な方向へは行けません。来年もよろしく。
投稿: 玄柊 | 2006年12月30日 (土) 05時24分
>玄柊さん
いつも読んでくださって、ありがとう。
関心領域は人それぞれ違って当然ですが、微妙にかさなりあうところがおもしろいと思います。
ぼくも、玄柊さんが書いたものから教わるところは多いのです。
投稿: やまおじさん | 2006年12月30日 (土) 08時58分