【読】勢古さん二冊
どうも、この「さん」という呼び方が、じぶんでも落ち着かないのだが、「氏」と呼ぶのもなんだし、呼び捨てにもしにくいので・・・。
この一週間で、勢古浩爾さんの新書を二冊読んだ。勢古浩爾
『この俗物が!』
(洋泉社新書y 100) 2003/12
『わたしを認めよ!』
(洋泉社新書y 018) 2000/11
タイトルこそきついが、じっくり読ませる本。
『この俗物が!』
<俗ニ生キ俗ニ死ス人間が、それでも生きる覚悟において非俗でありたいと願う人々に贈る、おもしろくて切ない「当世俗物図鑑」>
これでも、まだ胡散臭い気がしたが、読み始めるとうなずくことばかり。
終章、「非俗の人」(第五章)で、沢木耕太郎の『無名』にえがかれた、沢木耕太郎の父親のことをとりあげている。
この『無名』をぼくは読んでいないが、勢古さんはここで次のように書いている。
<沢木耕太郎は父親を八十九歳で失ったが、その死(と生)を書いた『無名』(幻冬舎)は佳品である。 前もっていっておくと、その父親が非俗の人である。 この親にしてこの子あり、というほどにはわたしは沢木自身を知らないが(本だけは多少読んでいるが)、たぶん父親はその徹底した非俗性においてはるかに沢木以上である。 余計なお世話だが、『無名』というタイトルよりも、「非俗の人」のほうがよりふさわしいと思えてくる。 このような人がいるのである。 そして、このような人がいるということは、ほかにもいるということだ。>
これに続けて、『無名』から引用して、沢木耕太郎の父親がどういう人だったかを紹介している。
沢木さんの父親のような存在は、ショックだった。
『無名』を読んでみようと思う(BOOK OFFで購入)。
もう一冊、『わたしを認めよ!』は、承認論といえばいいのか。
章立てが、まるで『共同幻想論』(吉本隆明)のようだ。
「孤独論」「自己証明論」「家族承認論」「性的・社会承認論」「反承認論」「普通論」「最終承認論」。
もちろん、吉本さんほど難しくはないが、この著者の他の本と比べると語り口が静かで重い。
承認とはなにか。 著者によるとこういうことだ。
<「承認」とは、他人によって、最終的には自分じしんによって、自分という存在が認められ、受け入れられることである。 「認める」とは、より多く、行為や態度に関わるものであり、「承認」とは、それらを包摂してなお、存在そのもにに関わるものである。>
<ひとは承認なしでは生きられない。 この低能が、という一言によって、あるいは最低の男ね、という面罵によって、わたしたちはいとも簡単に傷つく。 自分という存在がその瞬間に転覆しそうになるのだ。 傷ついたあとで、猛然と反発する。・・・>
第三章「家族承認論」で、「無条件の承認は存在の引き受けである」という。
<おまえは「生きていても、いいんだよ」。/わたしたちは自分という存在への、この根源的な承認を必要としている。 そしてこの根源的という意味において、原則的にそれが可能なのは家族による承認をおいてほかにはない、とわたしは考える。 (中略) それは自分という存在が、たしかにこの世の中に受け入れられている心的安心であり、すべての承認のなかで最も基本的かつ重要な承認である。>
引用ばかりになったが、このように硬いことばかりが書かれているわけではなく、さまざまな本をとりあげて、それを題材に勢古さんの持論を展開している。
<本書は軽くて単純だが、すこしだけ深いのである。>
と書いているが、まったくその通りだと思う。
「軽い」かどうかはわからないが、書いていることはいたってシンプルなことかもしれない。
終章「最終承認論」で、どう生きればいいのか、ということが(もちろん著者の持論だが)理解しやくす書かれている。
五木寛之さんの『他力』が引用されているのが(いい意味で)意外だったが、ぼくは勢古さんの持論に同意できる。
この本には感動した。
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コメント
「無名」は、私の愛読書で、沢木二郎の俳句を書にしています。次回の書画展には出します。沢木の「檀」もお薦めです。「他力」は、アメリカでも随分読まれたらしいですね。
投稿: 玄柊 | 2007年2月 3日 (土) 08時58分
>玄柊さん
今回も、書きながら玄柊さんのことが頭のすみにありました。
沢木さんの本は、ずいぶん前にまとめて読んだ時期がありますが、『無名』『檀』は読んでいません。そのうち読んでみます。
投稿: やまおじさん | 2007年2月 3日 (土) 14時12分