【読】小説・菅江真澄(続)
フィクションではあるが、ほとんど史実をベースにしていて、興味ぶかかった。
以下、個人的な覚え書きとして残しておこう(後になると忘れてしまうから)。中津文彦 『天明の密偵 小説・菅江真澄』 (文藝春秋)
菅江真澄(1754?~1829/宝暦4?~文政12) が、まだ白井秀雄という本名で旅をしていた前半生の話。
題名からうかがわれるように、白井秀雄が蝦夷地を目指したのは、政治的な密命を受けてのことだったのではないか、という作者の推理がベースになっている。
天明の密偵(中津文彦) ―文藝春秋のサイト―
http://www.bunshun.co.jp/book_db/3/23/26/9784163232607.shtml
船戸与一 『蝦夷地別件』 と重なって(まさに同時代)、なじみのある名前がいくつも出てきた。白井秀雄(のちの菅江真澄)が松前に渡ったのは、天明8年(1788)の7月半ば。 翌年の寛政元年(天明9年改元、1789)、江差の南にある上ノ国の川岸で、モロラン(室蘭)の番所から松前へ「夷人」の反乱を告げに走る松前藩の侍から、「クナシリ・メナシ」のアイヌ蜂起を聞いた ――と、この小説では描かれている。
『蝦夷地別件』に描かれた事件であり、反乱に関わりのあったアイヌ長老(乙名=オトナ)の名前も出ている。 実在の人物なのだろう。
クナシリのツキノエ、サンキチ、セツハヤフ(蜂起のリーダー)、イコトイらだ。
『蝦夷地別件』 の登場人物一覧では、次のようになっている。
ツキノエ・・・国後の脇長人(ワキオトナ)
サンキチ・・・国後の惣長人(ソウオトナ)
セツハヤフ・・・国後の長人(オトナ)、ツキノエの息子
イコトイ・・・厚岸の惣長人(ソウオトナ)、ツキノエの甥
このイコトイだけが、『小説・菅江真澄』では、ツキノエの息子、セツハヤフの兄弟となっているところがちがっているが、あとは同じ。
リーダーのセツハヤフはじめ37人はノッカマップ(根室)で処刑され、蜂起に参加せず鎮圧する側にまわったイコトイが、鎮圧後、松前で藩主の松前道弘に謁見し、褒美をもらう。 これは史実。その折、蠣崎波響(広年=松前道弘の異母弟)によって描かれた「蝦酋列像」の中の一枚が左。 描かれているのはイコトイである。
わたしはこの絵を見ると気分が悪くなる。
三白眼というのか、アイヌをこういう目つきの異形に描いた画家の悪意を感じるのだ。
それはさておき、この絵のイコトイが着ているのが、「蝦夷錦」と呼ばれた豪華な衣装。
アイヌ語では、サンタンチミップと呼ばれていたという(『蝦夷地別件』による)。
アイヌの人々が「山丹交易」で入手したものが和人の手に渡ったもので、元々は清朝の礼服だともいわれている。
『小説・菅江真澄』では、この衣装は、蠣崎広年が松前藩の宝物庫に納められていたものを貸し与えた、ということになっているが、『蝦夷地別件』では、イコトイも所有していたように描かれていた。
このあたりは、どこまでが史実かわからない。 船戸与一の創作かもしれない。このサンタンチミップの実物は、大阪の国立民族学博物館で見たことがある。 左は、私が撮影したその写真。
民博の館内では、一部例外はあったが写真撮影を許されていた。(2001.5.4 撮影)
国立民族学博物館 (大阪府吹田市千里万博公園10-1)
http://www.minpaku.ac.jp/白井秀雄は、蝦夷地でこの事件に遭遇した後、不自然な形で松前から逃げるように下北半島に戻る。
菅江真澄を名乗るようになったのは、48歳で津軽を離れ、出羽から秋田(久保田)に落ち着いた五十代なかばを過ぎた頃らしい。
それまでに書きためていた日記類や画帳を整理して、膨大な旅日記を残している。
頭巾をかぶった晩年の風雅な相貌からは想像できない、波瀾にみちた半生だったことが、この小説を読んでみてよくわかった。
(左:講談社『日本全史』 P.755 1785/天明5年の項から)
次に読んでみようと思っているのが、この本。 『菅江真澄 みちのく漂流』
簾内敬司(すのうち・けいじ) 著
岩波書店 2001年
こちらは小説ではなく、少し硬そうな内容だ。
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