【楽】【読】Portrait in Jazz (続)
和田誠(絵)と村上春樹(文)による 『ポートレイト・イン・ジャズ』 (新潮社) は、私にとってひさしぶりのヒットだった。
和田誠さんの絵がなんともいえない味をだしているし、村上春樹さんのエッセイもいい。
私の知らないジャズのレコードもたくさん紹介されていて、うれしいのだ。
続編 『ポートレイト・イン・ジャズ 2』 も読んでみたいな、と思っていたところ、文庫版が出ていて、これがなんと正・続二冊をまとめたものだった。
買ってから気づいたのだけれど。『ポートレイト・イン・ジャズ』 新潮文庫
2004.2.1 発行 781円(税別)
カラー図版、340ページでこの価格はお買い得。
ほんとうはサイズの大きい単行本で手許に置いておきたい本だが、値がはるので文庫でがまんしよう。
図書館から借りてきた正編は、今日一日の往復の通勤時間で読みおえてしまった。
この本の中で、いいなと思った箇所がある。
<ビリー・ホリデイの晩年の、ある意味では崩れた歌唱の中に、僕が聞き取ることができるようになったのはいったい何なのだろう? それについてずいぶん考えてみた。 その中にあるいったい何が、僕をそんなに強くひきつけるようになったのだろう? / ひょっとしてそれは 「赦し」 のようなものではあるまいか ―― 最近になってそう感じるようになった。 ビリー・ホリデイの晩年の歌を聴いていると、僕が生きることをとおして、あるいは書くことをとおして、これまでにおかしてきた数多くの過ちや、これまでに傷つけてきた数多くの人々の心を、彼女がそっくりと静かに引き受けて、それをぜんぶひっくるめて赦してくれているような気が、ぼくにはするのだ。 もういいから忘れなさいと。 それは 「癒し」 ではない。 僕は決して癒されたりはしない。 なにものによっても、それは癒されるものではない。 ただ赦されるだけだ。> (Billie Holidayの項)
長文の引用になったが、さすが、村上春樹の名文。
「もういいから忘れなさい」 ……グッときたね。
もうひとつ、"レディ・デイ"の相方、"プレス"(レスター・ヤング)のエピソードが、いい。
<「見事な音楽だったが、その楽器は見るに耐えない代物だったね」 とある人はレスターについて回想している。 「安物の楽器を、輪ゴムや糊やらガムなんかでくっつけ合わせているんだ。 でもそこから生まれる音楽は、ほんとうに素晴らしかった」 / 好漢レスター・ヤングについて語られたエピソードの中で、僕はこれがいちばん好きだ。 そう、そうでなくちゃ、と思う。> (Lester Youngの項)
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コメント
1997年12月、私は初版でこの本を買いました。10年後、やまおじさんが、私がガツンとやられたのと同じ部分を引用していることに不思議な感情を覚えました。当時の自分の生活とジャズは、まさにそう言う赦しの感情に関係していました。時を隔てても、この部分を忘れない心の動きは、いまだに自分の中にあります。
投稿: 玄柊 | 2007年10月 3日 (水) 17時06分
>玄柊さん
玄柊さんがずっと前から愛読していたことは知っていました。いい本ですね。
村上春樹、私はまともに読んだことがなかったのですが、彼はいいフレーズを書きますね。
ちょっと気障に感じることもありますが、厭味のない、好ましい文章を書く人だと感じました。
投稿: やまおじさん | 2007年10月 3日 (水) 20時51分