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2007年10月11日 (木)

【読】ノモンハンの話(続)

村上春樹 『辺境・近境』 (新潮社) の中の 「ノモンハンの鉄の墓場」 にふれて、もう少し。

Murakami_haruki2この旅行記では、ノモンハンでの戦い(1939年5月)について、多くの記述がさかれている。
日本では「ノモンハン事件」と呼ばれてきた。
正式な戦線布告のない戦いだったせいだが、村上春樹は「ノモンハン戦争」と言っている。
モンゴル側の呼び方は 「ハルハ河戦争」。

戦場の跡や日本の関東軍の要塞跡などを、人民解放軍やモンゴル軍の宿舎に泊めてもらいながら現地の軍人の案内でまわっているのだが、広大な草原をジープで延々と走る。
このクルマ(ロシア製の軍用ジープ)がおもしろい。

<しかし現地の人々は日常の足として日本製のスマートな四輪駆動車よりは、むしろこういう単純で無骨な車を好むようだ。 (中略) 自分では手の施しようのないブラックボックスみたいなものがまったくないし、すべては剥き出しだから、もしどこかが故障しても自分の手で簡単に直せるし、ガソリンやらオイルやらラジエーター液やらにあれこれ贅沢をいわない。 その辺にあるものを何でもいいから――小便でも焼酎でも――とりあえず入れておけば目的地までは走るというタイプの車である。>

そんな車に乗せられて、まるで 「全自動洗濯機に入れられたような」 気分で戦場の跡を見てまわる。
その途上、草原の真ん中に一匹の狼をみつける。

<モンゴル人は狼をみつけると、必ず殺す。 ほとんど条件反射的に殺す。 遊牧民である彼らにとって、狼というのは見かければその場で殺すしかない動物なのだ。>

同行した中尉は、座席の下から慣れた手つきでAK47自動小銃を取りだし、一つ目のマガジンを使いきってもなお車の中から狼を撃ち続け、ついに追い詰めてしまう。
最後に狼が殺されてしまうところの描写がとても印象的だ。

<チョグマントラは運転手にジープを停めさせ、ライフルの銃身をドアに固定し、照準を狼にあわせる。 彼は急がない。 狼がもうどこにも行かないことを彼は知っている。 そのあいだ狼は不思議なくらい澄んだ目で僕らを見ている。 狼は銃口を見つめ、僕らを見つめ、また銃口を見つめる。 いろんな強烈な感情がひとつに混じりあった目だ。 恐怖と、絶望と、混乱と、困惑と、あきらめと、……それから僕にはよくわからない何か。>

Murakami_henkyou_photo写真篇もあわせて読んでいる。
『辺境・近境 写真篇』 (松村映三 写真/村上春樹 文) 新潮文庫
このカメラマンが、なかなかおもしろい人物。
彼の撮った、殺された狼の写真は、もの悲しい。
一枚の写真のチカラを感じる。

二冊をあわせ読むと、ずっしりと響いてくるものがある。
ひさしぶりに読みごたえのある旅行記なのだ。 

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コメント

H先生は、この戦いに参加していたのですね。「ねじまき鳥クロニカル」には、ノモンハンが非常に興味深く描かれていましたね。これを読まずして、村上春樹を語る事なかれと「聖書」に書かれています。(事実に反していますが、やまおじさんを村上ワールドへ引き込むためには許されるという連絡がありました)

投稿: 玄柊 | 2007年10月11日 (木) 23時06分

>玄柊さん
高校の時の先生とノモンハンの関係ですが、私は噂を耳にしただけなので、本当かどうか定かではありません。
ノモンハンの戦闘に参加したとすると、私の父親よりも年上だったのか、と今になって思います。

ところで、『ねじまき鳥クロニクル』って、面白い小説なんですか?

投稿: やまおじさん | 2007年10月12日 (金) 21時17分

それは、読んでみないと分かりません。(笑)

不可思議な世界です。。
そこが、やまおじさんのお気に入りになるかどうかは、隠れ・・にも分かりません。。。。
ふむ、ふむ、

投稿: モネ | 2007年10月12日 (金) 21時43分

>モネさん
『ねじまき鳥クロニクル』は気になる小説でした。
コメントをいただいて、よけい気になってきました。
図書館から借りてこようかと・・・。
満州、ノモンハン、興味はもっぱらそこなんですが。

投稿: やまおじさん | 2007年10月13日 (土) 12時57分

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