【演】【読】富籤
難しい字を使ってしまった(手書きじゃ、ぜったい書けない)。
今風に言えば宝くじ。
この季節になると思いだし、これまで何度も書いたことが、上方落語の演目 「高津の富」 (江戸落語では 「宿屋の富」)。
桂枝雀の名演には、聴くたびに笑わされ、ホロリとさせられる。
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ふところのさびしいオヤジが、金持ちのふりをして宿屋に泊まり、宿屋のあるじから富くじを買わされる。
宿屋のあるじが、富札の販売もしていたようだ。
一番(一等)の賞金が千両。
富札一枚の値段は一分(いちぶ)だった。
この金額が、現代の貨幣価値でどれくらいに相当するのか、ずっと謎だった。
(それほどのことでもないのだが、どう調べればいいのかわからなかった)
今読んでいる(まだ読みおえていない)この本で、疑問が解消。
― 金森敦子 『伊勢詣と江戸の旅』 (文春新書) P.33 ―
<お金の単位と相場>
1両=4分=16朱
1両=変動するが、おおよそ6貫500文前後
(1貫=1000文)
<文政2年の柏崎の大工・左官などの日当>
12日=1分=4朱
3日=1朱
1両=6830文 1朱=427文
なかなか難しいのだが、1両は現代の6万円に相当するという(金森さんは米の値段から換算)。
そうすると、千両はいまの6000万円ほどか。
高津の富籤は、ジャンボ宝くじのようなものだったのだな、と納得。
富札一枚が一分(1万5000円)もしたというのは、ちょっと驚きだ。
― 桂枝雀 「高津の富」 (こうづのとみ) から ―
「アハン、うん、なンじゃちいなさんのじゃえ」
「富札でござりますが、富でございます」
「ハーハ、富というのは、どのようなものじゃえ」
「旦さん、富ご存知やござりませんので。 いえ、エー、なんでござります、明日、突きますのでございます。高津神社、高津のお宮さんに、これと同じ番号を書いた札がございまして、明日、それを突きますのでございます。今も申しましたように、一番に当たりましたら千両、二番なら五百両、また三番なら三百両という、こうゆうことになっておりますのでございます」
「ハー、おもしろいことしますのじゃね、アー、そうかえ。な、なにかいな、その一番ちゅうやつに、ヒョッと当たっても、千両さえ出しゃ、それで堪忍してもらえるのかえ」
「アハハハハハ、何をおっしゃいます。偉いことが間違うとおります。千両というのは向こうからくれますのでございま」
(中略)
「旦さん方にとりましては、目くされ金かも存じませんが、手前ども生涯かかって、見ることの出来ン大金でございます。エー、どうでございまっしゃろ、旦さん、一つお遊びにでもお買いになり」
「なンじゃちなさった。エー、おもしろいこと言いなさったじゃないかエ。遊びに買いますかい。運だめし、てんごに。ダハハハおもしろかろう、なンぼあげたらええのじゃ」
「一分でござります。手前ども一分と申しますと、もう大金でござりまするが、旦さん方、一分なぞ」
「ア、なンじゃちいなさる。一分、ちゃなどんなもんじゃエ、エ、どのような、わたしゃ、小判より他、使こたことがありませんでな。ア、アーア、アノ、なにかい、ちょいちょい乞食にやったりなんぞする、あんなんかエー。小さな額が、ア、そう。いや、賽銭にしなされちゅうてな、ハア番頭どんが持たしてくれた、あの余り、一つや二つ残ってたのと違うかえ。エヘヘヘヘ、アー、こんなもンと違うかえ」
・・・とまあ、こんなふうに、このおやっさんは、なけなしの一分を富札に替えてしまって、後悔するのだった。
たしかに、一分は大きな金額だったのだ。
以下、宿屋のあるじが退出したあと、このオヤジの独り言。
<・・・ハァ、いてしもた。ハァ、こわ、イヤー、やまこもええかげんにはっとかないかん。あの親爺、何言うても本気にするもんやさかい、あたしゃ調子に乗ってしゃべってた。大事にしてた虎の子の一分をば、ハァ取られてしもた。・・・>
レコードに付いていた口演録から書き写したので、ほんらいの語りのおもしろさが十分に伝わらないかもしれないが、とにかくおもしろいので、興味をもたれた方は、ぜひ実際の音源でおたのしみいただきたい。
ところで、年末ジャンボ宝くじ、今年はどうしようかなぁ・・・。
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コメント
難しいところですね~。買うかやめるか・・・宝くじ。
「ええどうです?今年最後の夢をお買いになっちゃあ?」「慌しい年の瀬だからこそ、夢くらい見なくちゃねえ」
って感じですか。駆け込みで多分、買いに行きそうな私からの提案です。
投稿: 麻生 れい | 2007年12月19日 (水) 02時47分
>れいさん
アレは、どうやら欲の強い人にはあたらないようで。
「夢を買う」ぐらいの気持で買わないとだめかなぁ、と思いつつ、たぶん私も買うと思います。
ところで、「高津の富」の主人公のおやっさんは、絶対当たらないと思いながら、抽選会場(高津神社)に行くんですね。
(文無しになって、することもないんだけど、金持ちの旦那のふりをして「ちょっと取引に」なんて言いながら宿を出て)
目の前で当選番号が読みあげられて、じぶんの富札と照らしあわせても、まだ、当たっていないと思いこむような人です。
江戸時代もいまも、変わりませんね、人の情ってやつは。
投稿: やまおじさん | 2007年12月19日 (水) 05時44分