【読】図書館から二冊
すぐ近くに図書館があるのは、うれしいことだ。
借りていた本を返し、リクエストしてあった本と、書棚でみつけた本を借りてきた。
『and Other Stories』
とっておきのアメリカ小説12篇
村上春樹・柴田元幸・畑中佳樹・斎藤英治
川本三郎 訳 / 文藝春秋 1988.9.20
『The Catcher in the Rye』
キャッチャー・イン・ザ・ライ
J.D.サリンジャー 村上春樹 訳
白水社 2003.4.20 / 2003.4.25(第二刷)
サリンジャーの 『ライ麦畑でつかまえて』 (邦題がヘンだ)は、野崎孝訳のものを、ずっと前に読んだことがある。
村上春樹の訳で読んでみようと思って、借りた。
『ライ麦畑でつかまえて』 という邦題にしなかったのは、村上さんのこだわりだろうか。
巻末に 「本書には訳者の解説が加えられる予定でしたが、原著者の要請により、また契約の条項に基づき、それが不可能になりました。 残念ですが、ご理解いただければ幸甚です。 訳者」 とある。
サリンジャー(原著者)との間で、いったい何があったのだろう。
ところで、『and Other Stories』 の巻頭、村上春樹の一文に、ちょっとひっかかる部分が――。
<たとえそれがどのような種類のアンソロジーであれ、アンソロジーというものはすべからくその寄って立つべきコンセプトを有している。>
あっ、村上春樹さんともあろう人が・・・。
世界的な作家に対して失礼ではあるが、「すべからく」 って、こんなふうに使うんだっけ?
手元の国語辞典から。
すべからく 【須く】 〔副詞〕当然なすべきこととして。ぜひとも。「学生は―勉学に励むべきだ」 漢文訓読から出た語。多く下に「べし」や「べきだ」を伴う。 語法 「落ちた武者たちは―討ち死にした」など、「すべて」の意に解するのは誤り。 (大修館書店 明鏡国語辞典)
揚げ足とりみたいで、申しわけないけれど。
この場合の「すべからく」は、「その寄ってたつべき」の「べき」にかかるのか。
そんなわけないだろうな。
「すべからく」 なんて難しい言葉を使わず、「すべて」 でよかったんじゃないだろうか。
好意的に解釈すれば、言いたいことはこういうことか。 すなわち――
「アンソロジーというものはすべからくその寄って立つべきコンセプトを持つべきだ。」
村上春樹さんにしてはめずらしく、ちょっと座りの悪い文章ではある。
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コメント
私も、時々文章を書いていて、これでいいのかなという間違いは多々あります。村上春樹でさえ、ノーベル賞候補の彼でさえ、間違うんだから・・、ということで、許してあげましょうか。彼の文章は、やはり彼らしい個性があり、それが良くも悪くも多くの読者をひきつけていますね。
サリンジャーは世捨て人になったようですから、もう新たな訳は、望んでいないということでしょうか。
投稿: 玄柊 | 2007年12月 8日 (土) 17時37分
デジタル大辞泉
た ・ つ [1] 【 立つ 】
……
ある物事に基礎を置く。そこに立脚する。 「因(よ)って- ・ つ所以(ゆえん)」 「仮定に- ・ つ話」
……
因る/拠る/由る/依る にすべきようにおもわれます
いずれにしても編集者 校正者にも問題ありということか
サリンジャーに関しては野崎孝の訳のほうがわたしは好きです
投稿: uji-t父 | 2007年12月 8日 (土) 20時50分
>玄柊さん
この「すべからく」は、いろんな人(文筆家)が間違った使い方をしているのが、以前から気になっていたのでした。
なぜ、こういったムズカシイ言葉を使いたがるのか、わたしには理解できなかったので、ちょっと書いてみました。
他意はありません。
>uji-t父さん
ひさしぶりです。
そう言われれば、「寄って立つ」(村上春樹の原文どおり)もおかしいですね。
たしかに、編集・校正者が気づくべきところかもしれません。
サリンジャーの村上訳はまだ読んでいないので、なんとも言えませんが、名訳と言われる野崎訳に挑戦、という気持が村上春樹にあったのでは・・・という期待をこめて読んでみます。
投稿: やまおじさん | 2007年12月 8日 (土) 22時06分