【読】宮部みゆき 再読 (4)
今年にはいってから、宮部みゆきの時代小説を順に読み返している。
4冊目の 『幻色江戸ごよみ』 (新潮文庫)の終盤にさしかかっていて、あと一話と半分を残すのみ。
前回(1月15日)、「一月から十二月までの江戸の季節のうつり変わりを背景にしているようだ」 と書いたが、それぞれの月に因んだ話でもない。
全十二話で構成されているため、てっきり月ごとの話かと思ったのは私の早とちりだった。
江戸の季節が感じとられ、当時の庶民(長屋ぐらしの人々が多い)の生活感があふれている。
悲しい話、つらい話もいくつかある。
健気に懸命に生きようとして、どんなにあがいても不幸から脱け出せない人もいる。
どの時代も、生きることは不条理そのものである。
それにしても、現代とは比べものにならない衣食住環境で、みんな頑張っていたんだなあ、と頭がさがる。
私など、当時生まれていたら、とっくのとうに飢え死にしていたか、犯罪に走っていたかもしれない。
江戸という当時の大都市では、貧富の差が大きく、富裕な商家もあれば、子どもを借金のかたに丁稚奉公に出さなくては生きていけない長屋の住人もいた。
犯罪も多かっただろう。 現代ほどではなかったにしても。
ところで、この連作の中では、第十話 「神無月」 の出来がすばらしい。
文庫版巻末解説(繩田一男)から引用する。
<第十話「神無月」。 年に一度、神無月の夜、病弱な娘のために盗みを働く・・・(以下略)>
注)あらすじを書いてしまうと、未読の方の楽しみを奪ってしまうので詳しく書かない。
<たとえていえば、「神無月」を読んでいて感じるのは、宮部みゆきが、一文字、一文字、細心の注意を払って筆を運ぶ際に生じる息づかいのようなものであろう。>
まったく同感だ。
この「神無月」の原文の一部を紹介しよう。
<夜も更けて、ほの暗い居酒屋の片隅に、岡っ引きがひとり、飴色の醤油樽に腰を据え、店の親父を相手に酒を飲んでいる。> 「神無月」 (一)の冒頭
<夜も更けて、九尺二間の裏長屋のほの暗い部屋の片隅に、男がひとり、瓦灯(かとう)の明かりひとつを頼りに縫物をしている。> 「神無月」 (二)の冒頭
この計算されつくしたみごとな文章に、思わず舌をまく。
宮部みゆき、おそるべし。
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