【読】江戸に学ぶ
「江戸」がブームらしい。
江戸落語もひそかなブームだという。
「江戸文化歴史検定」 などというものもあるらしい。
http://edoken.shopro.co.jp/
なんとなく、誰もが行き詰まりを感じている現代。
江戸時代を見直そうという、その気持は、わからないでもない。
きのう、近くの図書館でみつけて借りてきた本がこれ。
『大江戸ボランティア事情』
石川英輔・田中優子 著 講談社 1996.10.30
宮部みゆきの時代小説を読んでみても、そこに描かれている江戸時代の都市生活は、わるくなかったと思う。
現代の日本は、高度消費社会である。
お金がすべてとは言わないが、ほとんどのことは金でどうにかなる。
逆に、金がないと、たちまち立ち行かなくなる。
私も、定年後の生活を考えると、暗澹たる気持になる。
稼いで、使って、という繰り返しから抜けだせないものか。
江戸時代は、そんなに悪い時代ではなく、現代の我々が学ぶべき点も多いと、著者は言う。
<江戸時代の先祖たちは、経済成長率が一パーセント以下の状態で生きていたから、現代的発想では、非常に貧しい生活だった。 ところが、当時の庶民生活を具体的に調べてみると、たいしてお金を持っていないのに、われわれが想像するほど生活に困っていたとは思えない。
むしろ、普通の生活を常識の目で見る限り、貧しいはずの江戸時代の人々が、あまり貧しそうに見えないのは、不思議なほどである。 どんな世の中にも不幸が絶えることはないから、皆が皆とはいわないが、普通の生活は、そこそこ幸福そうで生き生きして見えるのだ。>
― 『大江戸ボランティア事情』 序章 ボランティアのいない社会 ―
私たちは子どもの頃から、なんとなく 「江戸時代はよくなかった」 と教えられてきたように思う。
「封建制」「鎖国」は、そのまま悪の代名詞だった。
どうも、そうではなかったようなのだ。
この本の「序章」から、もう少し引いてみる。
<・・・現代よりはるかにバランス感覚に優れた社会や人間関係や価値観は、すでに過去にあった。 江戸時代の社会に濃厚にあったのはもちろん、ほんの三十年前までは、私たちの身近な生活の中にも息づいていたのである。>
<・・・ついこの間まで、江戸時代の日本だけが、世界でもっとも不幸な封建社会で、みじめな鎖国日本から一歩でも出れば、そこには平和と民主主義の花が咲き乱れた、素晴らしい<外国>が広がっていたかのような誤解を与えそうな論調がはびこっていた・・・>
欧米の、いわゆる 「先進国」 も、これからの日本のお手本にはならない。
ようやく、皆がそのことに気づきだしたようだ。
<・・・江戸時代に相当する時期の世界には、どこにも極楽や天国が存在しなかたことも、あの時代のヨーロッパ人たちが、われわれの祖先よりはるかに大がかりでハタ迷惑な愚行をかさねていたことも知っている。
十六世紀のヨーロッパが、アジア、アフリカの住民の犠牲の上に栄えていたことと、ヨーロッパ人がそれをほとんど反省していないことは、ようやく常識になりかけている。 また、江戸時代に相当するヨーロッパは、平和と自由と民主主義どころか、ヨーロッパ内部でさえ戦争ばかりしていた。
日本では長い平和な時代が始まっていた十七世紀初期、一六一八年から四八年にかけての三十年戦争では、ドイツの人口が半分とも三分の一ともいわれるほどに減ってしまい・・・>
いちいち、もっともである。
多少、理屈っぽい記述も多いが、江戸時代の生活が、具体的に生き生きと描かれている本だ。
いまさら江戸時代に戻ることはできないし、戻りたいとも思わないが、過去、それも自分の国の先祖たちがやってきたことを、よく知り、なにかしら手がかりを得ることはできると思う。
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コメント
家人が、宮部みゆきの「理由」を読んで、すっかりファンになったようです。やまおじさんの影響でしょうか。
投稿: 玄柊 | 2008年2月11日 (月) 23時34分
>玄柊さん
そうでしたか。
うれしいですね。
よろしくお伝えください。
宮部みゆきファンは女性にも多く、高校の時の同期生の女性(同期会でたまに会います)もファンでした。
ひところ、メールのやりとりで宮部みゆきの小説の話題でもりあがったことを思い出します。
二・二六事件を扱った『蒲生邸事件』などもおすすめです。
投稿: やまおじさん | 2008年2月12日 (火) 20時09分