【楽】きょうだい心中
これも思いだしたので、書いておこう。
山崎ハコさんが歌う 「きょうだい心中」 という歌にまつわる話だ。
「はっぽん」のライブでも、この歌の生い立ちを、ハコさんが話していた。
ハコさんが歌った 「きょうだい心中」 は、神代辰巳監督の映画 「地獄」 (1979年、東映)の挿入歌。
神代監督が、カセットでハコさんの歌を聞き、「こんどの映画の主題歌はこの子に作らせる」と、指名してできたのが 「心だけ愛して」 という、もう一曲の挿入歌だったということだ。
(アルバム 『人間まがい』 1979年発売 に収録)
ところで、とつぜんだが、こんな本がある。
『南方熊楠を知る事典』
講談社現代新書 1993.4.20 (絶版)
南方 熊楠(みなかた くまぐす)
1867年5月18日(慶応3年4月15日) - 1941年(昭和16年)12月29日)
日本の博物学者、生物学者(とくに菌類学)、民俗学者。
菌類学者としては動物の特徴と植物の特徴を併せ持つ粘菌の研究で知られている。
主著『十二支考』『南方随筆』など。
投稿論文や書簡が主な執筆対象であったため、平凡社編集による全集が刊行された。「歩くエンサイクロペディア(百科事典)」と呼ばれ、彼の言動や性格が奇抜で人並み外れたものであるため、後世に数々の逸話を残している。
(出典:Wikipedia)
この「知る事典」は、なかなか面白い本だが、 「きょうだい心中」 という昔から歌われている歌のことが書かれている。
「南方熊楠主要著作解題――月下氷人」 (本書P.532~、西川照子)
<今も熊野等の碇泊地で船頭や船饅頭が唄う、「所は京都の堺の町で、哀れ悲しや兄妹(おととい)心中、兄は二十一、その名は軍平、妹は十八、その名はお清、兄の軍平が妹に×て、それが病の基(もとい)となりて、ある日お清が軍平眼元にもしもし兄上御病気は如何、医者を迎うか薬を取ろうか、医者も薬も介抱も入らぬ、一夜頼みよ、これお清さん、これこれ兄様何言わさんす、人が聞いたら畜生と謂わん、親が聞いたら殺すと言わん、私に一人の夫がごんす、歳は二十一、虚無僧でござる、虚無僧殺して下されますりゃ、一夜二夜でも三八夜でも、妻となります、これ兄上よ。(後略)>
これは、南方熊楠が、1913年に宮武外骨の主宰する 『月刊不二』 三号に載せた文章の一部を、西川照子が引用している部分である。
南方熊楠は、一般に卑猥、淫猥と言われていることにもこだわりを持たない、自由闊達な人だった。
("お硬い"柳田国男とは、そこがちがう)
<「月下氷人」を熊楠は「むすぶのかみ」と読む。 サブタイトルは「系図紛乱の話」。 近親相姦の古話によって論は進むが、熊楠はここでまず神々の物語を語る。 (以下、略)>
面白いのは、筆者の西川照子さんがこの文章のなかで、山崎ハコの名前をあげているのことだ。
以下、長くなるが、その部分を転載する。
<この「兄妹心中」、京の伝承では、「堺の町」(堺町?)は「西陣町」、兄の名は「モンテン」、妹「オキヨ」の年が十九、妹の男の年も十九、とある。 多少の異同はあるものの京の流行歌(はやりうた)がどうして、熊野の船頭や遊女に歌われたのか。 おそらく、「兄妹心中伝承」 は全国にあったが、都である京のものが、改めて全国へ流布したのであろう。 それにしてもこの話、あまりにも哀れである。 これが「淫行」であろうか。 遊女が海に向かって歌ったというところが、熊楠も語るように哀しい。
姉と弟、兄と妹――神々の世界なら許されるこの恋愛が、人間世界ではなぜいけないのか。 この 「きょうだい恋愛」 は現在でも生きている。 内藤やす子の流行歌 『弟よ』(橋本淳作詞) は 「弟よ、弟よ」 と呼びかけ、「悪くなるのは もうやめて あなたを捨てたわけじゃない」 とキワドイ科白をいう (ちなみに 『きょうだい心中』 も山崎ハコによって歌われた)。> (本書 P.535~)
この西川さんという人も、面白い人である。
(西川照子 神奈川県生まれ。出版・編集企画制作集団「エディシオン・アルシーヴ」主宰。 岡見正雄に中世学を、梅原猛に哲学を師事。 専攻は民俗学。 著書に『神々の赤い花――人 植物 民俗』―平凡社、論文に「南方熊楠を見立てる」など)
山崎ハコ
『ベストコレクション Dear My Songs』
2001年9月 PONY CANYON 2枚組
DMCA 40124
このベストアルバムは、山崎ハコ初監修(選曲、曲順、解説)によるもので、過去のアルバムからまんべんなく選曲されている。
上の二曲もはいっている。
このアルバムが出来るという事が、嬉しくてたまりません。 歌は私が作った大切な宝物です。 これは最強のベストアルバムです。 ―― 山崎ハコ
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コメント
きょうだい心中は滋賀県の江州音頭(河内音頭の古い形)が原典と聞いているのでその方面から調べてみるのも面白いかもしれませんね。
知り合いに音頭取りのボサノバシンガーがいてるので聞いてみますね。
投稿: こまっちゃん | 2008年5月 4日 (日) 23時26分
>こまっちゃん
南方熊楠は熊野に詳しい人だったので、こういう話をとりあげたのかもしれませんね。
江州音頭起源説、私には興味深いので、わかったら教えてください。
投稿: やまおじさん | 2008年5月 5日 (月) 06時47分