【読】昭和16年夏の敗戦(続)
こんなに面白い本だったのかと、あらためて感心しながら読み続けている。
はじめて読んだのは、今から10年以上前かもしれないが、面白かったという印象しか残っていない。
われながら、情けない記憶力だ。
猪瀬直樹
『日本人はなぜ戦争をしたか 昭和16年夏の敗戦』
小学館 「日本の近代 猪瀬直樹著作集 8」
第二章 「イカロスたちの夏」 にさしかかって、がぜん面白みがましてきた。
ところで、イカロスって何だっけ?
ああ、そうだった。
ギリシャ神話にでてくる、翼をもった人物。
「父ダイダロスの作った翼をつけて、いましめを忘れて高く飛びすぎ翼を固めていた臘が太陽の熱で溶けて海に墜死」(三省堂「新明解百科語辞典」)
知っていたつもりで、じつはよく知らないことの、なんと多いことよ。
中学、高校のときに、もっとベンキョーしておけばよかったと、今さらながら思う。
「統帥権」 についても、この猪瀬さんの本で、あらためてホントーのところがわかった。
<当時のわが国の国家意思は「統帥(大本営)」と、「国務(政府)」の双方の会議により発動された。 (中略) 旧憲法では統帥権は、"神聖にして犯すべからず"で政府は関与できない。 統帥部(大本営)は政府と別個に作戦を発動できたのである。 軍部独走の素地はここにあるのだが、旧憲法の制度上の欠陥を補うために、統帥部と政府の双方の会議は、「政府、大本営連絡会議」でなされた。 その形式的承認儀式が、天皇臨席の「御前会議」である。> (P.110)
天皇に対する事前の「根回し(奏上)」があって、御前会議はその形式的な追認だったということも、私は認識していなかった。
御前会議では、天皇は原則として意見を述べることをしなかったという。
(昭和)天皇の戦争責任、ということも考えてみる。
猪瀬直樹はこう書いている。
昭和16年12月1日、日米開戦を決める御前会議のくだり。
<セレモニーは数時間後に控えている。 天皇は日米開戦を避けたがっていた。 皇太子時代の英国留学で「初めて自由を知った」天皇が以来すっかり欧米贔屓になっていたことはよく知られている。/だからといって天皇が平和主義者だったということにはならない。 中国侵略については比較的寛容だったし、日米開戦についても、終戦の「御聖断」を下すことができたくらいなら、もう少し積極的な役割を果たしえたのではないか、後日、議論が分かれたところである。> (P.94)
いまやすっかり悪者扱いされている、東條英機についても、冷静な記述がされている。
(猪瀬直樹は「東條」と表記していて、この字が正しい。「東条」は新字体)
綿密な調査・取材のたまものだと思う。
東條英機は、じつに実直な軍人で、第三次近衛内閣の総辞職後、陸相をやめて用賀にあった自宅にひきこもるつもりで、荷物を運びはじめていたという。
天皇による組閣の大命は、東條じしんも、周囲の誰も予想していなかったことだった。
首相(陸相、内相を兼任)になった後、日米開戦決定までの四十五日間、なんとか開戦を引き伸ばそうと、主戦論者(統帥部)と、開戦に消極的な天皇及び閣僚との板挟みで腐心していた、というのが猪瀬直樹の記述だ。
その東條も、日米開戦決定後、急激に「挙国一致」で戦争遂行に邁進していく……。
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コメント
なるほど、今まで曖昧だったことが明確になってきますね。私は、この猪瀬さん、石原の下にいると言うだけで偏見があります。
投稿: 玄柊 | 2008年7月31日 (木) 11時35分
>玄柊さん
私も政治的な活動には首をかしげますが、これまで書いたものは面白いと思います。
投稿: やまおじさん | 2008年7月31日 (木) 22時44分