【読】感染症は世界史を動かす
タイトルは、本の題名。
すこし前に古本屋でみつけて、面白そうなので買ってあったもの。
今日から読んでいるが、すこぶる興味ぶかい内容だ。
『感染症は世界史を動かす』
岡田晴恵 ちくま新書 580 2006.2
― 著者略歴より ―
岡田晴恵(おかだ・はるえ)
1963年生まれ。 共立薬科大学薬学部大学院修士課程卒業。
順天堂大学医学部大学院博士課程中退。 医学博士。
専門は感染免疫学、ワクチン学。
現在は国立感染症研究所ウィルス第三部研究員。
その間、マールブルク大学ウィルス学研究所に留学する。
(以下略)
― カバーより ―
歴史からなにがしかを学びとり、自衛、防衛するための手がかりを見出せないだろうか。 それが本書を書く、私の強い動機となった。 さらに、ふり返るだけでなく、前を向きたい。 それは、私の職務上の意思であったかもしれない。 このことから、最後の章では新型インフルエンザの危機管理にも言及した。
この本の冒頭、ドイツの古い大学街マールブルクをはじめて訪れたときのエピソードがいい。
聖エリーザベト教会を訪れ、13世紀、ハンセン病に尽くしたエリーザベトという女性に思いをはせるところは、感動的だ。
― あとがきより ―
私が世界やその歴史とのつながりをもって感染症を捉えなおすきっかけとなったのは、ドイツ留学であった。 地続きのヨーロッパにおいては、戦乱に明け暮れるのと同じくらいのさまざまな感染症に脅かされながら、歴史を刻んで来ている。 ドイツの古い街には、そこかしこに感染症の惨禍をしのばせる跡が残っていた。
私の住んだマールブルクもまた、ハンセン病に尽くしたエリーザベトの眠る街であった。 私の下宿の窓を開けると、山上に方伯城が見え、目の前にはエリーザベト教会が壮麗な姿で立っていたのだった。 (後略)
このように、しっかりとした動機で書かれた本なので、読み応えがある。
― 目次より ―
第一章 聖書に描かれた感染症
中世のハンセン病、イエスの治療と教会のハンセン病対策、他
第二章 「黒死病」はくり返す?
ハーメルンの笛吹き男、フィレンツェを襲ったペスト、他
第三章 ルネッサンスが梅毒を生んだ
シューベルト、モーパッサンとハイネ、ニーチェ、他
第四章 公衆衛生の誕生
第五章 産業革命と結核
結核のロマン化、劇作家チェーホフの結核、
樋口一葉、正岡子規、エンゲルスの見たロンドン、他
第六章 新型インフルエンザの脅威
第七章 二一世紀の疾病
残念なことに、エイズ(HIV)とC型肝炎(HCV)という、現代の大きな二つの感染症については触れていないようだ。
詳しく書かないが、C型肝炎に無縁ではない私にとって、ちょっと残念。
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コメント
チエホフ、一葉、子規の結核が入っていますね。エイズ、C型肝炎が入っていないのはなぜでしょう。感染症の部類に含まれないのでしょうか?
投稿: 玄柊 | 2008年7月18日 (金) 13時09分
>玄柊さん
エイズや肝炎はウィルスによる感染症ですが、この本では触れられていません。
著者は新型インフルエンザ(これもウィルス)に注目しているようです。
エイズもウィルス性肝炎も治療法が確立されていませんが、新型インフルエンザも脅威ですね。
結核については、興味ぶかい記述がありました。
有名な絵画「ヴィーナスの誕生」のモデルが実在し、結核に侵されていたそうです。
外国の作家では『嵐が丘』のエミリ、『アグネス・グレイ』のアン、『ジェーン・エア』のシャーロットのブロンテ三姉妹、『宝島』のスティーヴンソン、バルザックなど、結核で亡くなったとか。
日本では、森鴎外の死因が結核性腎萎縮による尿毒症だったということも、この本で知りました。
樋口一葉の香典帳には、幸田露伴、泉鏡花、森鴎外の名前の他、質屋の名前もあり、これらの香典で支払ったであろう彼女の薬代は五円十九銭、一葉の借家の家賃は月三円だったとか、いろいろと興味ぶかいことがたくさん書かれています。
この著者、妙にブンガクに詳しく、ちょっと面白い人です。
投稿: やまおじさん | 2008年7月18日 (金) 20時48分