【読】こんな本を読んでいる (3)
『地獄の日本兵 ニューギニア戦線の真相』
飯田 進 著
新潮新書 273 2008.7.20
ようやく読み終えたこの本の 「あとがき」 に、こんなことが書かれている。
<戦後、とりわけバブル景気華やかだったころ、数多くの戦友会によって頻繁に行われた慰霊祭の祭文に、不思議に共通していた言葉がありました。
「あなた方の尊い犠牲の上に、今日の経済的繁栄があります。 どうか安らかにお眠りください」
飢え死にした兵士たちのどこに、経済的繁栄を築く要因があったのでしょうか。 怒り狂った死者たちの叫び声が、聞こえて来るようです。 そんな理由付けは、生き残った者を慰める役割を果たしても、反省へはつながりません。 逆に正当化に資するだけです。 実際、そうなってしまいました。>
<なぜあれだけ夥しい兵士たちが、戦場に上陸するやいなや補給を断たれ、飢え死にしなければならなかったのか、その事実こそが検証されねばならなかったのです。 兵士たちはアメリカを始めとする連合軍に対してではなく、無謀で拙劣きわまりない戦略、戦術を強いた大本営参謀をこそ、恨みに怨んで死んでいったのです。>
その 「大本営の参謀たち」 の生き残りの一人、服部卓四郎という人物が、この後紹介されている。
服部卓四郎――太平洋戦争発起時の大本営参謀本部作戦課長。
サイパン島陥落を機に、中国奥地に連隊長として左遷されていたが、戦後間もなく、GHQのウィロビー少将によって、一人任地から連れ戻される。
太平洋戦争の戦史編集という名目だったが、実際には対ソ連戦に備えた軍事情報の提供と、再軍備の下工作に携わっていた。
<なぜ服部大佐だったのか。 その理由は簡単でした。 大本営に着任する前、彼は関東軍(満州[中国東北部]に駐屯していた日本陸軍部隊)の作戦主任でした。 関東軍の長年の仮想敵国はソ連でした。 もうお分かりになった筈です。 服部大佐は、日本を片づけたアメリカ軍にとって重要な人材と判断されたのです。>
旧軍の職業軍人を集めた 「服部機関」 なるものが、GHQからの給与を受けながら、再軍備の下工作に暗躍し、大佐自身は再軍備の総参謀長に擬せられていた。
彼が仕えた東条英機がA級戦犯として処刑される前後のことだ。
著者がスガモ・プリズンに送還されて間もないころ、朝鮮戦争が勃発(1950年6月25日)。
同年8月10日、警察予備隊が発足した。
服部大佐の幕僚長就任こそ、時の吉田茂首相によって忌避されたが、旧軍人に対する公職追放令は解除され、職業軍人だった者たちが、続々と警察予備隊に入隊した。
それが、今日の自衛隊の発端だ。
<その旧軍人たちを、ここで一概に非難するつもりはありません。 (中略) ですが、職業軍人とは、昔でいえば武士です。 武士道の最重要な規範に、恥を知ることがあります。 (中略)
彼らの大部分は、参謀の立案した作戦計画に従って戦場に投入され、命を落としました。運よく生き残って本国へ戻り、また懸章をぶら下げる軍人のどこに恥を知る心があったのでしょうか。>
もうひとつ、著者があげている例。
戦争末期の、日本の都市への絨毯爆撃、さらには、広島・長崎への事前警告なしの原爆投下。
この爆撃作戦を立案し、指揮したのが、アメリカ軍のカーチス・ルメイ空軍少将だった。
戦後、彼は空軍元帥にまでなった。
その彼に、日本政府は、昭和39年、勲一等旭日大綬章を授与した。
もちろん天皇の名によって。
授賞の理由は、日本の航空自衛隊の育成に協力したことだった。
― 以下、Wikipediaより ―
カーチス・エマーソン・ルメイ(Curtis Emerson LeMay, 1906年11月15日 - 1990年10月1日)は、第二次世界大戦期のアメリカ合衆国の軍人である。戦略爆撃の専門家、東京大空襲を初めとする日本の焦土化作戦を立案した。後に、空軍参謀総長になった。
1964年その功績により、日本政府より勲一等旭日大綬章を授与された。これは参議院議員で元航空幕僚長源田実と小泉純也防衛庁長官(小泉純一郎の父)からの強力な推薦によるものであった。なお勲章は本来、授与に当たって直接天皇から渡される(天皇親授)のが通例であるが、昭和天皇はルメイと面会することはなかった。
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