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2008年9月25日 (木)

【読】再読 『同日同刻』 (山田風太郎)

ちょっと読み直してみようと軽い気持ちで開いているうちに、がぜん面白くなってきたので、通読してしまった。
二年前に手に入れて読んでいるが、今回、再読。

Doujitsu_doukoku

山田風太郎 『同日同刻』
 ― 太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日 ―

ちくま文庫 2006.8.10  840円(税抜)
(立風書房 1979年8月/文春文庫 1986年12月)

このブログのカテゴリにも、「山田風太郎」 を追加したので、ご興味のある方はカテゴリをクリックしてご覧いただきたい。

すでに、前回読んだときの付箋がいっぱい付いていたのだが、付箋のない箇所で今回気になったところを紹介しておこう。


「最後の一日 八月十五日」 の項から。

九日前の八月六日に原子爆弾を投下された広島での逸話。
昭和天皇の 「玉音放送」 を聞いた人たちのことだ。
出典は、峰谷道彦 『ヒロシマ日記』 (朝日新聞社)。

<広島の病院では、天皇の放送をきいて俄然静まりかえった。 寂(せき)として声なく、しばらく沈黙がつづいていたが、間もなくすすり泣きの声が聞え出した。
 突然、誰か発狂したのではないかと思われるほど大声で、「このまま敗けられるものか」 と怒鳴った。
 それにつづいて、矢つぎばやに、「今さら戦争をやめるとは卑怯だ」 「人をだますにもほどがある」 「敗けるより死んだ方がましだ」 「何のために今まで辛抱したのだ」 「これでは死んだ者が成仏出来るか」 いろんな表現で鬱憤が炸裂した。
 病院は上も下も喧々囂々(けんけんごうごう)全く処置のない昂奮に陥った。 日ごろ平和論者であった者も、戦争に厭き切っていた者も、すべて被爆のこの方俄然豹変して徹底的抗戦論者になっていた。
 「東条大将の馬鹿野郎、腹を切って死ね」
 と、怒鳴った者もあった。>

この本では、広島の被爆後の地獄絵図が、たくさんの書き物(日記、手記、文集)を引用して、微細にえがかれている。
それを読んだ後だったので、私には、広島の病院の被爆者たちの反応が意外に思えた。

人間とは、なんと不思議なものか。


もう一箇所、ちょっと、ひっかかった部分がある。
堀田善衛(当時十七歳)の文章。
出典は、勁草書房 堀田善衛 『上海にて』。

<上海にあった二十七歳の堀田善衛は、同様に戦争中日本に協力してくれた中国人の運命について、天皇が 「何をいうか、何と挨拶するか」 ひたすらにそればかりを注意して聞いていた。 そして天皇がそのことについて、ただ 「遺憾ノ意ヲ表セザルヲ得ズ」 という曖昧な二重否定をしたきりで、ほかには触れなかったその薄情さ加減、エゴイズムが躯(からだ)に応えた。
 「放送が終ると、私はあらわに、何という奴だ、何という挨拶だ。 お前の言うことは、それっきりか、それで事がすむと思っているのか、という怒りとも悲しみともなんともつかぬものに身がふるえた」>

中国、朝鮮半島の人々にとって、この日(八月十五日)は、解放の日だったことを忘れてはいけないと思う。


ちょっと愉快だったのは、永井荷風の逸話だ。
この人だけは、飄々としていた。
出典は、『断腸亭日乗』 (荷風全集)。

<絶望し、悲嘆し、慷慨し、狼狽し、虚脱する者ばかりではなかった。 ひそかに、あるいは公然と喜悦する人もまたあった。
 谷崎潤一郎に見送られたあと、永井荷風は記す。
 「……出発の際谷崎夫人の贈られし弁当を食す。白米のむすびに昆布佃煮及び牛肉を添えたり。 欣喜措く能わず。 (中略=山田風太郎) 午後二時過岡山の駅に安着す。 焼跡の町の水道にて顔を洗い汗を拭い、休み休み三門の寓舎にかえす。 S君夫婦、今日正午ラジオの放送、日米戦争突然停止せし由を公表したりと言う。 恰もよし日暮染物屋の婆、鶏肉葡萄酒を持来る。 休戦の祝宴を張り皆々酔うて寝に就きぬ。」>


この本は、じつに面白い。
面白いと言うにはつらすぎる話が満載されているが、きわめて興味ぶかい本だ。
あらためて、推奨。



【参考】 ― Wikipedeiaより ―
堀田善衛(ほった よしえ、1918年7月7日 - 1998年9月5日)は、日本の小説家。
富山県高岡市出身。生家は伏木港の廻船問屋であり、当時の日本海航路の重要な地点であったため、国際的な感覚を幼少時から養うことができた。旧制金沢二中から慶應義塾大学に進学し、文学部仏文科卒業。大学時代は詩を書き、雑誌「批評」で活躍、その方面で知られるようになる。戦争末期に国際文化振興会の上海事務所に赴任し、そこで終戦を迎え、国民党に徴用される。引揚後、一時期新聞社に勤務したが、まもなく退社し、作家としての生活にはいる。

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