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2009年1月25日 (日)

【読】船戸与一の流儀

Funado_manshuu_booklet_2船戸与一 『満州国演義』 に見る中国大陸
 愛知大学東亜同文書院ブックレット 5
 あるむ 2008/3/31

船戸与一の講演録が収められているこのブックレットに、興味ぶかいことが書かれていた。
彼が、講演の最後に聴衆からの質問に答える形で、自作 『満州国演義』 にふれて、次のように語っている。


質問者
「霊南坂の人びと」 (註:週刊新潮連載、『満州国演義』 に発展する) を毎週楽しみに読ませていただきました。 先ほど 『満州国演義』 は、全八巻の構想があるというお話でしたが、続きは 『週刊新潮』 に連載されるのでしょうか。 もう一点は、非常に魅力のある四兄弟ですが、実在のモデルみたいな方がおられたのでしょうか。

船戸与一の回答
まず、「霊南坂の人びと」 は、『満州国演義』 第一部に収め、その続きを単行本の書き下ろしで執筆するという。
(これで、私の疑問のひとつは解消した。どうりで、週刊新潮の広告に見当たらないわけだ)

もうひとつの、「モデルがいるか」 という質問に対して、あっさりと 「いません」 と答えた後、こんなことを喋っている。

原文を少し引用してみよう(本書 P.41)。

<なぜああいうふうに作ったかと言うと、小説の書き方には天の目という使い方があるんですが、上から俯瞰して見る書き方です。 例えば 「満洲の大地に十万の軍勢が動いていた」 という書き方は天の目を使っています。>

<これにたいして、ある登場人物の視点からしか見えない書き方というのもあります。 登場人物の視点から見るので天の目は使えないんですね。 一人の登場人物だと状況が複層的にならないので四、五人は要る。 あまり多くなると読者に混乱を与えますので四人に絞りました。>


なるほど。
船戸小説の流儀ともいうべき秘密が、よくわかった。

この小説の主人公として「敷島四兄弟」を登場させたワケとして、船戸が語っていることを引き続き要約すると――

長男(敷島太郎)=外交官
 官僚にしか入ってこない情報があるから、どうしても必要な登場人物
三男(敷島三郎)=軍人
 一般人にはわからない軍の情報を得るために軍人が必要
次男(敷島次郎)=馬賊
 官僚にも軍にも分からない、草の根しか取れない情報を彼の目から取るため
四男(敷島四郎)=「ただの流され者」(第二部までの段階)
 満州にはロマンがある(満洲ロマン説)、満州は侵略でしかない(満洲侵略説)
 といった一元的な見かたではとらえられない
 そんな単純なものではない、という船戸の考え方から
 両方の説に当てはまらない存在=「貧乏くじを引いた人間」として登場させた


船戸小説の魅力は、現代の紛争にしても、過去の歴史(アイヌの蜂起=『蝦夷地別件』、日中戦争=『満州国演義』)にしても、このような「複層的」な視点から描いていることからきているのだろう。

そんなことを思った。



【2009/1/27追記】
まえにも紹介したが、新潮社のサイトに船戸与一が自作を語るインタビュー記事が掲載されている。
これがなかなか面白い。

船戸与一『風の払暁―満州国演義1―』『事変の夜―満州国演義2―』
 波 2007年5月号より
 [船戸与一『満州国演義』刊行記念] だれも書いたことのない満州を

http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/462302.html

<従来の満州を語る姿勢を分類すると、ひとつは、ロマン説。新しい国家というのをまっさらに作り上げることの魅力だね。もうひとつは、侵略説。この二つの溝はとても埋められるようなものじゃない。どういうふうに満州国が出来上がっていったのかを語ること以外に解答はないんだ。ロマン説であろうが侵略説であろうが、意義を語るだけでは何の解決にもならないので、具体的な内実を語ることが必要だと思った。だから、断片的な事例や論を語るのではなく、これで満州の全てが丸ごと分かるような作品を書きたかった。> (船戸与一)

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