平岡正明という評論家がいる。
1941年東京生まれ、1963年早稲田大学露文科中退。ジャズ評論等で活躍。
――著者略歴には、そのように書かれている。
60年代安保世代で、いろいろ活動してきたらしいが、私はよく知らない。
とくべつなファンというわけでもないが、何冊か読んできた。
この人の文章は面白くて、読ませる。
ただし、いいことを言っているかどうか、内容は保証しかねる。
平岡正明 『日本人は中国で何をしたか』
潮文庫 1985/7/30発行 (親本:1972年 潮出版社)
350円 236ページ
単行本で読んだ記憶があるが、手元に残っておらず、ネット販売で中古の文庫版を入手。
二、三十年ぶりに読んでみたが、興味深い内容だった。
勉強にもなった。
先の戦争に関する書物はたくさんあるが、どちらかというと 「やられた」記録(いわゆる、わだつみ系の手記など)が圧倒的に多く、日本人がアジアで何を 「やった」 か、加害者の立場から書かれた記録は少ない。
ひどいことをした人たち(自ら進んでやった人ばかりではなく、「やらされた」人も多いだろうが)は、みんな口をつぐんでいるのだろう。
著者 平岡氏はこう書く。
(本書 106ページ、「3 三光における国家意思と兵の実情」)
<日本軍隊の教育は、まず具体的に人を殴ってみること、殺してみることである。
皇道イデオロギーにもとづく日本軍隊の軍事教育および軍隊教育…(中略)…については、その奇形の精神病理学的分析にしても、集団心理学的分析にしても、あるいは軍隊内の階級対立にしても、戦中派イデオローグによる多くの内省があり、ここでくりかえすものではない。>
<興味ある読者は雑誌『新評』(1971年7月号)、安田武「日中・太平洋戦争を知るための150冊の本」リストを参照されたい。>
――として、この雑誌でとりあげられている 「わだつみ派文献」 を紹介している。
<戦没学生遺稿集、その他の遺稿集、戦争体験者の証言、女性の戦争体験、捕虜収容所・外地引き揚げ、沖縄、原爆、空襲、学童疎開、戦争文学主要作品の十項目について百五十冊の本がリストアップされている。>
<われわれは、これらの 「わだつみ派文献」 を読むべきであり、私自身もあんがい読んでいる。>
続けて、こう言う。
<しかし、安田武のこのリストアップのしかたはまちがっている。 このリストは、日中戦争および太平洋戦争で自分たちがどれだけやられたかという観点で網羅されている。 なにをやってきたかという観点が欠如しており、ことに三光関係の文献が一冊もなく、戦犯クラスの、つまり職業軍人の上層の手記も一冊しかない。 戦史、戦争論、軍事科学関係の本の匂いもない。 これでは日中戦争、太平洋戦争について半分しか知ることはできない。>
まったく、そのとおりだと、私も思う。
平岡正明 『石原莞爾試論』
白川書院 1977/5/15発行 1300円 224ページ
市の図書館には置いていないので、ネット販売で入手。
かなり変色している(ヤケがひどい)のに、いい値段がついていた(1830円)。
執筆当時(70年代後半、ある意味で騒然としていた時代だった)の「匂い」が濃厚な著作だが、面白い。
船戸与一の 『満州国演義』 にもひんぱんに顔を出す、この不気味な将軍 石原莞爾に関心があったので、読んでみようと思ったのだ。
まさに、「やった」側からの論考である。
<石原莞爾は日本近代史上稀な 「武装せる右翼革命家」 である。 たんに軍国主義者、武断派というだけではない。 職業軍人であり、陸大出の、ドイツ留学をしたエリート軍人である。 職業軍人とはなにか。 軍隊組織の内部にいなくてはアホみたいなものであり、軍隊(もっとも明確な階級制度と指揮命令の系統)がなければ無に等しいい。 これと異なって石原莞爾は、世界戦略をもった軍人であった。>
(本書 17ページ、「おりもおり、満州国建国問題を」)
読み始めたばかりなので、ためになる本なのかどうかは、まだわからない。
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