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2009年3月20日 (金)

【読】1970年代の五木寛之

明日が図書館の返却期限なので、がんばって読みおえてしまった。
他の本を読むあいまに、少しずつ読んでいた、五木寛之さんの若い頃のエッセイ集だ。

Itsuki_jigazou_2五木寛之 『深夜の自画像』
 1974/4/10発行  創樹社
 291ページ  価格不明

文春文庫で出ていたのだが、すでに絶版。
古本屋で探してみたが見つからなかった。
ずっと昔に文庫版で読んだはずだが、なぜか手許にない。
どうして手放してしまったんだろう。

ひさしぶりに読み返してみると、五木さんの作家としての出発点での意気込みが感じられて、新鮮だった。

「旅」「時代」「人間」「書物」「自己」「小説」とジャンル分けされ、 さまざまな文章が収められている。

「旅」の冒頭に、学研の「現代日本の文学31(太宰治)」に収録されている、「根の国紀行=太宰の津軽と私の津軽」(1969年)という、じつに興味深いエッセイがある。

<津軽を訪れるのは何年振りだろう。……私にとって、津軽という土地はなぜか自分の内部に或る重みをもって存在し続けている土地だった。>

という内容ではじまるこの津軽紀行を読むと、私もまた、津軽を訪れてみたい気持ちになる。

幼、少年期を過ごした朝鮮半島のことに触れた文章もある。
(「長い旅の始まり=外地引揚者の発想」 毎日新聞 1969年)
引き揚げ体験をあまり語らない人だと思っていたが、かなり具体的に書かれている。

おもしろかったのは、唐十郎や、緑魔子、太地喜和子といった演劇人へのオマージュともいえる文章だ。
(「同時代との出会い=唐十郎」 1973年、「魔女伝説=緑魔子」 1971年、「魔女伝説=太地喜和子」 1971年)

そうだ、あの頃は演劇界に異様な熱気があったな。
私はほとんど観ていないが、一度、友人に誘われて黒テントを観にいったことがあったっけ。


そんなこんなで、私自身の二十代と重なる1970年代の時代の空気を思いださせる本だった。

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コメント

たしか70年代の前半だったとおもうが 五木寛之が休筆宣言をして それからしばらくして『厳戒令の夜』を「小説現代」か「小説新潮」だったか中間小説の雑誌に連載開始で復帰し 君が買ってきたのかわたしが買ったのか忘れてしまったが 読んでがっかりした記憶がある だめな小説ではなかったが 期待が大きすぎたのだとおもう それから読むこともなかったが いつごろからかときに読むこともあった 五木寛之のある種のエッセイは中味は説教くさいもののはずなのに嫌味がないところがいいのだとおもう だから多くのひとに読まれるのだと
数年前だったが 朝鮮半島での体験について初めて書いていたが(話していたのかもしれない) それを読んでやはりがっかりした記憶がある わたしが不遜になったからかもしれない 期待していたような内容ではなかったが 年齢をとるとあのようなかたちになるのかもともおもう

はなしは変わりますが 回田本通りを図書館のところで左折して新小金井街道へ向かって左側を歩きながら行くと 白っぽい家の前に紫木蓮と白木蓮がいっしょになった(差別語と取られるのを気にしなければ間の子)あざやかな花が開いています 写真とってここで見せてくれると有り難いことです きょう次男と小金井から歩いて帰ったときに遠くからみかけました

投稿: uji-t父 | 2009年3月21日 (土) 00時59分

>uji-t父さん
紫木蓮と白木蓮がいっしょになった・・・これは、マグノリア・スーランジアナという難しい名前の園芸用の交雑種のようです。
よそ様の庭(というか家の真ん前)だったので、遠慮しながらですが写真におさめてきました。
後で掲載しておきます。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 07時50分

この本、今も持っていますが、創樹社発行でしたね。この出版社は現在は存在していませんが、つい先日、上京した時に創樹社の元社長で編集長だったTさんと会ってきました。
Tさんは82歳。この件は、やまおじさんにはお伝えしたと思います。五木は勿論ですが、埴谷雄高、花田清輝、安部公房、佐々木基一針生一郎など硬派の文学者が現存しているときに付き合いがあったようです。
五木のことは聞き洩らしましたが、Tさんとは今後も会う機会がありますので、その際は、聞いてみます。興味深いお話をお聞きしました。
この出版社、一時、中島みゆきの本で潤っということを聞きました。
私が彼と会った目的は、Tさんの出した「小熊秀雄全集」関連のことを聞くことでした。

投稿: 玄柊 | 2009年3月21日 (土) 07時54分

「さらばモスクワ愚連隊」なんて、ほんと題名が良かったよね。エッセイで知って、中野南口のクラッシク喫茶に70年の春、よく行ってたものです。k君とも、そこで落ち合って、うだうだ、しゃべっていたっけ・・・。昨日は手紙を2通書き、それから文学界を立ち読み、倉橋由美子についての対談が載っていたからです。関川夏央や加藤典洋が喋っていました。
 こちらも白木蓮が満開で、桜もほころび、足元にはオオイヌノフグリ、そして雪柳がとても綺麗です。

投稿: みやこ | 2009年3月21日 (土) 07時55分

みなさん、コメントありがとうございます。
期せずして同窓会になってしまいましたね。

高校2年まで私は文芸部にいましたが、当時、五木寛之は読んでいなくて、北杜夫にはまっていました。
私は少し奥手でした。
ジャズを聴き始めたのも、卒業してからです。

高校といえば、元 山岳部在籍者が三人集まりましたね。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 08時46分

>uji-t父さん

>君が買ってきたのかわたしが買ったのか忘れてしまったが……

これは憶えています。
私は小説新潮の連載当時から読んでいて、切り抜いたものを綴じて「本」にしたほど、この小説には感銘を受けました。
その後、単行本で出版されたのをお貸ししたのか、このあたりの記憶はあいまいです。
「サンカ」が出てくることについて、「やっぱりサンカが出てきたね」と言われたことを憶えています。

何年かたって読み返してみると、それほど凄い小説でもないと思ったのですが、当時の私には衝撃的でした。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 09時03分

>玄柊さん
偶然でしたが、五木寛之―創樹社―Tさん―小熊秀雄―玄柊さん、という繋がりでしたね。
中島みゆきの本、というのは意外でした。
なんという本か、今度教えてください。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 10時29分

>みやこさん
『さらばモスクワ愚連隊』なつかしい本です。
高校卒業後、旭川で半浪人生活をやめて映写技師をしていた時期がありますが、同僚が読んでいるのを横目で見ていました。
私はやはり奥手でしたね。

ハクモクレン、今がさかりですね。
私は、あの花がことのほか好きです。
以前住んでいた団地のバス停にこの樹があって、出勤途上、春が来たなあと最初に感じるのがこの樹の花でした。

中野には一時期住んでいたことがあります。
70年代の終わりでしたが、南口はあまり行ったことがありませんでした。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 10時36分

クラシックは中野の北口美観商店街(ブロードウェイの手前のアーケードの商店街)の一本西側に入った路地にありました 受験の際T先輩のところに完司が世話になりわたしも上高田にあったそのアパートに寄ったとき連れて行ってもらった記憶があります それ以来いちどだけ行ったけれどいかにもという雰囲気でしたね 暗くて迷路のようで
高円寺の南口 サンジェルマンに行く手前にネルケンというやはりクラシック喫茶がありそこへはよく行ったはず 五 六年前に前を通ったらまだあったので入りました いまはどうなのか

玄柊さん 創樹社の本は島尾敏雄・ミホのしかもっていませんでしたが 71年にできた出版社のようです
国立国会図書館の75年までのデータです 時代を感じます
これをみていると冨士正晴の関係で島尾の本が出たのかもしれません
ユージン・スミスの『水俣』を出していたんですね

1. 冒険と日和見 / 花田清輝. -- 創樹社, 1971
2. 盲滅法 / 深沢七郎. -- 創樹社, 1971
3. 中国の日本軍 / 本多勝一. -- 創樹社, 1972
4. ガダルカナル戦詩集 / 吉田嘉七. -- 創樹社, 1972
5. 鏡に挾まれて / 野間宏. -- 創樹社, 1972
6. 往生記 / 富士正晴. -- 創樹社, 1972
7. 露伴と遊び / 塩谷賛. -- 創樹社, 1972
8. 石川淳 / 佐々木基一. -- 創樹社, 1972
9. 硝子障子のシルエット / 島尾敏雄. -- 創樹社, 1972
10. なにが粋かよ / 斎藤竜鳳. -- 創樹社, 1972
11. 陰学探険 / 小沢昭一,永六輔. -- 創樹社, 1972
12. 房総の年輪 / 高橋在久. -- 創樹社, 1972
13. 不知火海 / 石牟礼道子. -- 創樹社, 1973
14. 水俣 / 写真:W.ユージン・スミス,アイリーン M.スミス. -- 創樹社, 〔1973〕
15. 東北と奄美の昔ばなし / 島尾敏雄. -- 創樹社, 1973
16. 茂吉の歌 / 岡井隆. -- 創樹社, 1973
17. 浅草コレクション / 関根弘. -- 創樹社, 1973
18. 歌と逆に歌に / 小野十三郎. -- 創樹社, 1973. -- (バリエテシリーズ)
19. 時と無限 / 大西赤人,大西巨人. -- 創樹社, 1973
20. 若きマチュウの悩み / 小沢信男. -- 創樹社, 1973. -- (バリエテ・シリーズ)
21. 桃源郷の夢 / 杉浦明平. -- 創樹社, 1973. -- (バリエテ・シリーズ)
22. 知恵の悲しみ / 長谷川四郎. -- 創樹社, 1973. -- (バリエテシリーズ)
23. 蒼白の飢餓 / 井上光晴. -- 創樹社, 1973
24. 未来からの声 / 小松左京. -- 創樹社, 1973
25. ナイルの奥地 / リチャード・ウィンダム[他]. -- 創樹社, 1973
26. 丹後のおんな / 窪田英樹. -- 創樹社, 1973
27. 房総昔話散歩 / 高橋在久,平野馨. -- 創樹社, 1973
28. 日本の老人たち / 船越恵. -- 創樹社, 1973
29. 教室日記 / 稲木恭平. -- 創樹社, 1974
30. 転形期 / 竹内好. -- 創樹社, 1974
31. アフリカびっくり冒険記 / 小坂知子,浜口すま子. -- M.I.C出版 創樹社 (発売), 1974
32. 狐の大旅行 / 桂ゆき. -- 創樹社, 1974
33. 狐の大旅行. 続 / 桂ゆき. -- 創樹社, 1974
34. 新・古典文学論 / 杉浦明平. -- 創樹社, 1974
35. 深夜の自画像 / 五木寛之. -- 創樹社, 1974
36. 心と肉体のすべてをかけて / 野間宏. -- 創樹社, 1974
37. 四角三角丸矩形 / 吉行淳之介. -- 創樹社, 1974
38. 見知らぬ人へ / 瀬戸内晴美. -- 創樹社, 1974
39. 茂吉の歌 / 岡井隆. -- 創樹社, 1974
40. わたしは生きている! / ライラ・バアルバキイ[他]. -- M・I・C出版, 1974
41. みちのく伝説集 / 山田野理夫. -- 創樹社, 1974
42. 音楽をどう生きるか / 内田裕也[他]. -- 創樹社, 1974
43. 現代アラブ文学選 / 野間宏. -- 創樹社, 1974
44. 差別への凝視 / 土方鉄. -- 創樹社, 1974
45. 海辺の生と死 / 島尾ミホ. -- 創樹社, 1974
46. 予算・決算・財政投融資 / 吉田尭躬. -- M・I・C出版 創樹社 (発売), 1974.10
47. 教室日記. 続 / 稲木恭平. -- 創樹社, 1975
48. アジア学の展開のために / 竹内好. -- 創樹社, 1975. -- (創樹選書 ; 1)
49. 山陰の年輪 / 内藤正中. -- 創樹社, 1975. -- (シリーズ日本の年輪 ; 2)
50. 小説在日朝鮮人史. 上 / 金達寿. -- 創樹社, 1975
51. 小説在日朝鮮人史. 下 / 金達寿. -- 創樹社, 1975
52. 女のかたち / 吉行淳之介[他]. -- 創樹社, 1975
53. 見出される時 / 瀬戸内晴美. -- 創樹社, 1975
54. シェイクスピア論 / ジョンソン[他]. -- 創樹社, 1975
55. 杜甫 / 田木繁. -- 創樹社, 1975
56. 視覚的人間 / ベラ・バラージュ[他]. -- 創樹社, 1975. -- (創樹選書)
57. 猥学探険 / 小沢昭一. -- 創樹社, 1975
58. 日本共和国初代大統領への手紙 / 詩:木島始[他]. -- 木島始, 1975
59. 対論・世直し / 聞き方:宇井純. -- 創樹社, 1975

富士正晴がらみでいえば 『贋久坂葉子伝』をおもいだし むかし学芸書林から出ていた当時としてはあたらしいかたちの文学全集に久坂の「ドミノのお告げ」を そう みやこさんなど読んでいたような気がします あの全集でいろいろな作家にめぐりあいました

いっちゃん そうか交雑種というんだ ありがとう


きょうは次男と飯能(埼玉県 所沢の先)にある姉の墓参りに行ってきました

投稿: uji-t父 | 2009年3月21日 (土) 16時05分

>uji-t父さん
いつも詳しい情報をありがとう。
リストを見ると、気骨のある出版社だったようですね。

今日はいい日和のお彼岸でしたね。

投稿: やまおじさん | 2009年3月21日 (土) 17時30分

uji-t父さん、詳しい情報をありがとうございます。富士正晴が「創樹社」という社名の名付け親で、玉井さんから島尾敏雄の話が出ていました。私は島尾敏雄の愛読者ですので、またお会いしたら詳しくこのあたりのことをお聞きしたいと思っております。彼は仕事柄、友人が多く、今回も美術評論針生一郎氏、ロシア文学者中本信行氏などを紹介され、非常に勉強になりました。
花田清輝の話も出ていましたが、小さな出版社として、ユニークな仕事をしていました。
また、何かお気づきの点がありましたら、お教えください。

やまおじさん、玉井さんから直接「中島みゆき」の本を出したとは聞きましたが、まだ調査不足です。分かれば書名などお知らせします。

投稿: 玄柊 | 2009年3月21日 (土) 20時03分

追記

「中島みゆきミラクル・アイランド」(谷川俊太郎ほか1983)
「中島みゆきを求めて」(天沢退二郎1986)
の2冊でした。どちらも、中島みゆき自身の著作ではないようです。

投稿: 玄柊 | 2009年3月21日 (土) 20時10分

そうか南口ではなく中野駅北口でしたね。喫茶「クラシック」で猫と遊んでいて旭川行き特急寝台券を無駄にしたこともありました。このところ青春時代を回顧しがちで、しかも美化のフィルターがかかっているから、どうにも年をとったものです。
 この10年、娯楽本しか読んでこなかったので、みなさまの読書欲に刺激されています。もっとも今年の文始め(えっ?こんな言葉あったっけ?姫始めと間違えているわけではないよね?)パヴェーゼでしたが。この作家を知ったのも東高の図書館でした。この図書館には、学芸書林のや、山岳関係から松本清張に吉川英治といろいろ揃っていましたねぇ・・・。
 パヴェーゼ全集は岩波から出ているのですが、同じ版元の『痴呆老人の世界』(阿呆順子)も仕事がらみでおもしろかった。(ブック・オフで200円だったので得しました)
 島尾敏雄・ミホ夫妻の息子さん(名前が?)の文章のファンです。パヴェーゼといい島尾といい、小説家は結果として成るもので、憧れて目指すものではないなあと、しみじみ思います。庄野潤三が友として島尾の‘不幸’を見ていて、自分は‘幸福’を描こうとしたのも無理ないなあと思います。庄野も『静物』で悲劇を書いてしまっていますから。以降の彼の喜劇には、ずいぶん救われてきたものです。
 

 


 
 

投稿: みやこ | 2009年3月22日 (日) 09時53分

>みやこさん

>島尾敏雄・ミホ夫妻の息子さん(名前が?)の文章のファンです。

島尾伸三さんですね。
私は詳しくないのですが、いちど、古本屋(BOOK OFFではなく、ブックセンターいとう)で文庫をみかけて買おうかなと思ったことがあります。
たしか、旅行記のような本だった気がします。
島尾敏雄もろくに読んでいない私ですが、ちょっと面白そうな人だなと、その時に思ったことを憶えています。

http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Searchall?cnt=1

投稿: やまおじさん | 2009年3月22日 (日) 15時41分

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