【読】わたしが生きた「昭和」 (澤地久枝)
そういえば、この人の本を読むのは初めてかもしれない。
ずっと長いあいだ、気になっていた人ではある。澤地久枝 『わたしが生きた「昭和」』
岩波書店(岩波現代文庫)
2000/1/14 241ページ 800円(税別)
(親本) 1995年 岩波書店刊
<貧しさゆえに一家で、「満州」に渡り過ごした少女時代、敗戦後の難民生活と家族の運命……。つねに声なき民の側に立って歴史を見つめ続けてきたノンフィクション作家が、今初めて自身の今日までの人生と家族の歴史に焦点をあて、「昭和」という時代の検証に挑む。作家活動の原点を示す記念碑的作品。> (本書カバー)
澤地さんは、1930年(昭和5年) 東京生まれ。
四歳のとき両親とともに「満州」に渡り、敗戦で引き揚げてきた。
まだ90ページほどしか読んでいないが、軍人だった叔父(お母さんの弟)一家は、昭和20年8月19日に朝鮮半島で自決したという。
自身の幼い頃からの体験記と、作家の冷静な目からの戦争批判が、バランスよく書かれていて好感が持てる。
次の一節には、ちょっと感動した。
名文である。
<歴史とは、大気のようでもあり、海のようでもある。一つの時代に生きていて、自分がどこにいるのか見定めることのできる人は稀であろう。現に隣りで、目前で、進行していることの本質が見えない。> (「四 有事の作為」 P.81)
この人は立派だな、と思う。
というのは、戦争指導者を鋭く批判しながらも、当時の大衆の多くが戦争を支持する心情をもっていたことを、きちんと押さえていることだ。
もちろん、兵役を喜んだ人はいなかったにちがいないが、戦勝に沸いたり、中国や朝鮮の人びとを蔑視する気持ちを疑わなかった大衆が、あの戦争を支えていたことも事実だろう。
被害者であり、加害者でもあった日本の大衆。
明治維新、開国、朝鮮半島への進出(侵略)、日露戦争を経て中国大陸へ。
大きな歴史の流れは、まさに、「大気のようでもあり、海のようでもある」。
大衆(他に適当なことばがないので、やむをえず使うが)は、その中で、流されていくだけだったのか。
戦後に生まれた私が「あの戦争」にこだわるのは、この疑問に自分で答えをみつけたいから、かもしれない。
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コメント
澤地久枝さんは、九条の会のメンバーでもあり、
私も尊敬しています。
知るべきことが、たくさんありますね。
投稿: モネ | 2009年3月 7日 (土) 00時23分
>モネさん
コメント、ありがとうございます。
澤地さんの著作を少し読んでみようと思います。
投稿: やまおじさん | 2009年3月 7日 (土) 08時30分