【読】読了 『もうひとつの満州』(澤地久枝)
まれにみる良書だった。
私にしてはめずらしく、土曜の夜から日曜日をはさんで、今日、月曜日の通勤電車の中で早くも読了。
図書館に返さなくてはいけないと思うから、よけい集中して読んだということもあるが、それだけ魅力的な内容だったのだ。
「あの戦争」と「満州」を知ろうとする人には、ぜひお勧めしたい本だ。
迷った末、Amazonで中古を購入することにした。
本体95円、送料340円。
Amazonには、文庫版を含めてたくさん出ている。澤地久枝 『もうひとつの満州』
文藝春秋 1982/6/1 発行
292ページ 1000円
楊靖宇という「反満抗日」の士(1940年没)を追って、旧満州(中国東北地方)を訪れた著者の、ノンフィクションである。
楊靖宇という人物の情報は少ない。
Wikipediaにもこの人の経歴は載っていなかった。
あるサイトによると、こうだ。
鉄の戦士―楊靖宇
http://japanese.cri.cn/81/2005/07/19/1@45230.htm
より転載(改行を加えた)
楊靖宇は、東北抗日連合軍の創設者であり指導者であった。
本名は馬尚徳、1905年、河南省確山県に生まれる。
学生時代は、反帝国主義愛国運動に積極的に参加。
1926年、中国共産主義青年団に入団。
1927年4月、確山の農民暴動において指導者として参与。同6月、中国共産党に入党。
1931年「9・18」事変ののち、中共ハルビン市道外区委書記、市委書記、満州省委軍委代理書記を兼任。1932年秋、南満州に派遣され、中国工農紅軍第32軍南満遊撃隊を編成。政治委員となり、盤石紅を遊撃根拠地の中心とした。1939年、東南満地区における秋冬期反「討伐」作戦では、部隊を率いて濛江一帯転戦。最後はただ一人、5昼夜にわたって敵と渡り合った。
彼は想像を絶するほどの持久力で、弾が尽きるまで戦い続け、1940年2月23日、吉林濛江三道庶?子にて壮絶な最期を遂げた。残忍な日本軍によって頭をかち割られ、腹も切り裂かれていた。彼の胃には枯れ草や木の皮、綿の実が入っているばかりで、食糧を口にしていなかったことが分かった。
彼を讃え、1946年、東北民主連合軍通化支隊は「楊靖宇支隊」と改名。濛江県も「靖宇県」となった。
(註)
「頭をかち割られ」というのは、澤地さんのこの本から得られる情報とは違っている。
楊靖宇の首は切られ、みせしめのために「さらしもの」にされたのは事実。
また、「腹も切り裂かれていた」というのも事実だが、当時、日本軍は抗日戦士を捕えると、胃の中味を調べて彼らの食生活を知り、討伐のための情報源としたという。
澤地さんのこの本には、ここで紹介したい「いい話」がたくさんある。
その中から。
澤地さんのお父さんに触れた部分。
(「五 故山にして他山」 P.214)
少し長い引用になるが、澤地さんがお父さんによせるあたたかい気持ちが伝わってくる。
<父は新京郵便局の三年間に中国語を学び、設計の図面をひくカラス口の使い方も習熟して、満鉄の試験を受けた。昭和十二年四月に採用になっている。三十二歳になったばかりだった。
この九月、満鉄は新京鉄路局を吉林に移転し、吉林鉄路局と改称している。そのために新規採用の枠がひろげられたということが、父にとってのチャンスであったのであろう。しかしけっこう二枚目で、貧乏はしても粋人であった父の努力は買ってやりたい。人生の階段を半段でものぼることがどんなに大変か、私はこの父から教えられたのだから。建国の理想などを私に説教もせず、わが家の必要が選ばせた渡満であることを心得ていた点でも、私はやはり父が好きである。>
「私ははやり父が好きである」 という言葉に、(中国人に対する)「加害者の一員」としての日本人移民ということを肝に銘じながら、「それでも……」という澤地さんの思いがよくあらわれている、と思う。
この本について書きたいことはたくさんあるが、私が書きはじめると、例によって引用だらけになりそうなので、つまり、私には上手に内容を紹介できるだけの技量がないので、これぐらいにしておく。
ご興味のある方は、ぜひ本書を手にとって読んでいただきたい。
楊靖宇について、ネット検索してみつけたサイトを紹介しておく。
【参考サイト】
通化・楊靖宇列士陵園
(吉林省・延辺朝鮮族自治州 フォトギャラリー)
http://yb.gnk.cc/yb2/2005huijia/yangjingyu/sub.htm
中国近現代史観光ガイド
http://www.chinatravel-modernhistory.com/index.html
>地域別観光>東北 通化 靖宇陵園
http://www.chinatravel-modernhistory.com/tiiki/tohokud.html
「中国近現代史観光ガイド」は、よくできたサイトで参考になる。
| 固定リンク
「【読】読書日誌」カテゴリの記事
- 【読】服部文祥さんの書評本(2022.06.14)
- 【読】2022年5月に読んだ本(読書メーター)(2022.06.01)
- 【読】桐野夏生 萌え!(2022.05.19)
- 【読】2022年4月に読んだ本(読書メーター)(2022.05.01)
- 【読】2022年3月に読んだ本(読書メーター)(2022.04.01)
「こんな本を読んだ」カテゴリの記事
- 【読】服部文祥さんの書評本(2022.06.14)
- 【読】2022年5月に読んだ本(読書メーター)(2022.06.01)
- 【読】桐野夏生 萌え!(2022.05.19)
- 【読】2022年4月に読んだ本(読書メーター)(2022.05.01)
- 【読】2022年3月に読んだ本(読書メーター)(2022.04.01)
「あの戦争」カテゴリの記事
- 【読】2021年12月に読んだ本(読書メーター)(2022.01.01)
- 【読】2021年 ぼちぼちいこうか総集編(今年読んだ本)その2(2021.12.27)
- 【読】今年も総集編(2019年・読書編 -2-)(2019.12.28)
- 【読】今年も総集編(2019年・読書編 -1-)(2019.12.28)
- 【読】朝鮮戦争・朝鮮分断の起源(2019.08.23)
「澤地久枝」カテゴリの記事
- 【読】ようやく三分の二まで読んだ、船戸与一「満州国演義」(2015.04.07)
- 【読】読了 『もうひとつの満州』(澤地久枝)(2009.03.09)
- 【読】読了 『わたしが生きた「昭和」』(2009.03.07)
- 【読】図書館はありがたいな(2009.03.07)
- 【読】わたしが生きた「昭和」 (澤地久枝)(2009.03.05)
「満州」カテゴリの記事
- 【読】Book Cover Challenge 2冊目(2020.05.10)
- 【読】満州と沖縄の本を入手(2016.02.25)
- 【読】全巻通読、「満州国演義」(2015.05.04)
- 【読】「満州国演義」、いよいよ最終巻へ(2015.04.29)
- 【読】ようやく三分の二まで読んだ、船戸与一「満州国演義」(2015.04.07)
コメント