【読】カハーニーシルベナーク
<……空路で二週間ぶりに首都ヤンゴンへ戻ってきた。
川下りもインド国境も、ただの観光といった程度で私には印象が薄かったが、船戸与一は御機嫌だった。
「小説の題名を思いついた」という。
「どういうのですか?」
「カハーニーシルベナークだ」 船戸さんは得意気に言ったが、私は眉をひそめた。
『アンナ・カレーニナ』とか『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』みたいな東欧系のタイトルは船戸さんには珍しい。というか、ミャンマーに全然合っていない。
そう言うと、「バカ!」と叱られた。「『河畔に標なく』だよ」>
船戸さんは、このタイトルが閃いたときに「もうこれで小説は書けたも同然だな」と言った。
「え、タイトルだけで万事オーケーなんですか?」と聞くと、「そうだよ。あとはこの題名に沿うように書きゃいいだけなんだから」と言った。
(高野秀行 『ミャンマーの柳生一族』 集英社文庫)『河畔に標なく』 船戸与一
集英社 2006年
493ページ 1900円(税別)
ついに、読了。
おもしろかったな。
ミャンマー(ビルマ)の中央部を北から南へ流れる川が、イラワジ川(エーヤワディー川)だ。
この物語は、そのイラワジ川に沿って展開する。
ミャンマー北部のカチン州。
ミャンマー国内では、民族対立が続いていて、とくにカチン州では独立をめざす勢力(カチン独立軍)がいまも活動している。
ミャンマー国軍、カチン新民主軍、ナガ民族社会主義評議会軍、といった勢力も、この地をめぐってしのぎを削っている。
軍事費を捻出するために、阿片をとる芥子が栽培されている。
かなり複雑な事情をかかえた国だということを知った。
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