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2009年3月16日 (月)

【読】『松本清張への召集令状』(続)

私にしてはめずらしく、二日目で全体の三分の二ほど、新書の220ページまで読んでしまった。
それほど、ぐいぐい読ませる内容なのだ。

Seichou_shoushuu『松本清張への召集令状』
 森 史朗 著  文春新書 624
 2008年3月20日発行  890円(税別) 317ページ

著者は、文藝春秋で松本清張の担当編集者だった人。
清張さんへの愛情が感じられる、なんとも心優しい文章だ。

<……この小文は松本清張論といった大上段に振りかぶったシロモノではない。ごく私的な、私が清張担当として浜田山に通った頃の私的メモといった小論にすぎないことを、あらかじめお断りしておきたい。/それゆえに、文中では筆者が気軽に「清張さん」と呼びかけることをお許しいただきたい。>

<これには、わけがある。/担当編集者のだれもが「清張さん」と呼び、「松本先生」という固苦しさでもなく、「松本さん」というよそよそしさでもない。ましてや、「松本清張先生」という格式ばった言いかたでもない。それは、一般読者にとっても同じことのようだ。>

引用が長くなったが、これは本書の「まえがき」に書かれている文章の一部で、続いてこんなエピソードが紹介されている。

筆者が浜田山の清張宅を訪ねた折のこと。
タクシーの運転手に行き先をつげると、「ああ、清張さんの家ですね」と気軽に案内してくれたという。

本書に掲載されている写真をみると、なかなかの豪邸なのだが、このエピソードだけで私は「清張さん」が好きになってしまった。


第一章 松本清張への召集令状
第二章 最初の軍隊生活
第三章 ある日の松本清張
第四章 孤高の作家
第五章 召集令状とは何だったか
第六章 松本衛生兵の真実


こういう構成。
第三章、四章は、松本清張の軍隊生活からいったん離れて、その人となりが描かれている。

ざっと、目次をあげておこう。
内容紹介は私の手に余るので。

第三章
 I 浜田山通いの日々
    清張古代史の挑戦/通説をくつがえす/「陸行水行」ブーム/
    「風雪断碑」のモデル/若き学者妻の死
 II 学会との対立
    モデルと実像/『二粒の籾』/学会へのいらだち/井上光貞教授との確執/
    清張史論について
第四章
 I  作家への道
    『文豪』三部作/清張さんとの取材行/小説の語り口/山田美紗の「愛欲日記]/
    「筆は一本、箸は二本」/『九州文学』を飛び出す
 II 痛烈な文壇批判
    文壇ぎらい/大佛次郎の激励/水上勉と松本清張/タイトルの秘密/
    井上ひさしへの手紙


今日はちょうど、この第四章まで読んだのだが、後輩作家の水上勉や井上ひさしに対する清張さんのあたたかさを示すエピソードがよかった。


その一例。
『手鎖心中』 で直木賞を受賞した井上ひさしへの、清張さんの手紙。
(清張さんは、このときの直木賞選考委員で、『手鎖心中』を強く推した。井上ひさしからの礼状への返事)

<これから忙しくなると思いますが、作品の質と健康のバランスに気をつけて下さい。>

<とにかく忙しさに挑戦していくような気魄は持つべきですが、なにぶんにもトンネルの暗黒に似ているので、ときには孤独感、絶望感にも捉われることがあるでしょうが、こういう自分との闘いも生じてきます。空洞内の雑音に迷わされることなく、自分の磁石を持っていて下さい。>

<自己の才能についてあらゆる可能性をさぐるのは、結局自分だけにしかできないことです。他の者(批評家を含めて)には判りません。前にかえりますが、ほかの人の言うことに謙虚に耳を傾ける態度はもとより必要ですが、納得のいかないものは無視して進んで下さい。当面の瑣末な「悪評」には全然気にしないことです。>


井上ひさしは、著者にこの手紙を見せたあと、こう言ったという。

<……井上さんは、「ちょっと、これを見て下さいよ」と手紙のあて先を指でしめした。流れるようないつもの文字で、堂々と宛名が書かれてあった。
 「井上ひろし様」――。>  (太字部分は、原文では傍点)

いい話である。
私は、こういう人が好きだ。

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コメント

最近宮部みゆき責任編集の「松本清張傑作短編コレクション」上、中、下を買ったばかりです。
生誕100年、いろいろと注目されていますが最後のエピソードだけでもこの本を読みたくなりますね。

投稿: 玄柊 | 2009年3月17日 (火) 13時47分

>玄柊さん
この本はおもしろいですよ。
宮部さん編集の本は、書店でみかけたことがあります。
松本清張、読んでみようかな。

投稿: やまおじさん | 2009年3月17日 (火) 21時29分

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