【読】読みました
タイミングよく、朝の通勤電車が錦糸町駅に着いたとき、本文を読みおえた。
帰りの電車の中で、解説(立松和平)と訳者(高野秀行)のあとがきを読んだ。
あとは、電車の中でぼーっとしていた。
もう一冊持って、出かけるべきだったな。『世界が生まれた朝に』
エマニュエル・ドンガラ 著/高野秀行 訳
"Le feu des origines" by Emmanuel B. Dongara, 1987
小学館 1996/12/10発行 1942円(税別)
小説のタイトルは、最後まで読んだところで種明かしがあった。
ここには書かないけれど。
立松和平の解説も、それなりに面白かったが、なによりも訳者あとがきに、この小説の魅力が要領よくまとめられている。
魅力あふれるこの小説を、たくさんの人に読んでもらいたい願いをこめて、紹介しておこう。
ほぼ、高野さんが書いている通りの文脈、表現で。
1.アフリカ的世界
この一冊の本にアフリカの全てがたたきこまれている。
祖先の霊、呪術、儀礼、タムタム、森や大河が支配する伝統社会に始まり、征服者である白人の到来、植民地時代、独立闘争、そして独立後の混迷と急激な近代化。
この、ほとんど全アフリカに共通の歴史を、一人のコンゴ人の一生と重ね合わせながら描ききっている。
2.普遍性
アフリカをはるかに超えた普遍性を有している。
アフリカの物語である以上に、「この世に生を受けた一人の人間の物語」であり、「アフリカ人であること」の奥に「人間であること」という光がはっきり見てとれる。
ドンガラの淡々とした語り口に、いつも人肌のぬくもりのある普遍性が感じられる。
3.思想――≪知≫と≪力≫
アフリカの思想に正面から取り組んでいる。
アフリカでは、精神と物質を切り離して考えることはない、とよく言われる。
なんらかの≪力≫が働けば、物質にも魂が宿るし、心に念じたことも物理的な存在になりうるという。
その≪力≫を動かすものが≪知≫である。
※ 「知」という言葉は、「知性」よりも「知恵」のニュアンスか。
4.物語性
この作品を見るかぎり、ドンガラは特に際立った小説技法やレトリックを持ち合わせていないようだ。
代わりに、めりはりのきいた話の展開と快いテンポでストーリーテラーとしての能力を存分に発揮している。
冒険、恋愛、戦い、家族、長老、魔術、夢……といった物語のあらゆる要素が盛り込まれており、純粋にエンターテインメントとしても十分楽しめる。
以上であるが、私には、最後の「物語性」が、この小説の魅力の大きな部分だと思える。
ちなみに、この作品は、作者(ドンガラ)が日本滞在中に書きあげられた。
本文の最後にも、こう記されている。
モンペリエ/ボコ/ブラザヴィル/東京
1975―1978、1983―1986
繰り返しになるが、この素晴らしい小説を、たくさんの人に読んでもらいたいと願う。
高野秀行さんという人を教えてくださった、「こまっちゃん」に感謝。
高野秀行さんに出会わなければ、この小説にも出会うことがなかっただろうから。
ところで、今日、ネット注文(e-hon)してあった高野さんの新刊が書店に届き、さっそく受けとってきた。『メモリークエスト』 高野秀行
幻冬舎 2009/4/10 発行
327ページ 1400円(税別)
ユニークな発想・企画で書かれた、興味ぶかい内容(書き下ろし)。
e-honサイトより
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032232784&Action_id=121&Sza_id=C0
[要旨]
あの日、あの時、あの場所で消えたあなたの記憶、探しにいきます。「探索のプロ」を自任する著者は、縁もゆかりもない赤の他人のために、不安を抱きつつも世界へ飛び立った。時空を超えた空前のドラマが、いま始まる。
[目次]
第1章 スーパー小学生(タイ)(「白紙」の船出;ゴルゴ杉山一家、西へ ほか);第2章 根無し草の男(タイ)(早く来い来いメーサロン!;タイ・ミャンマー国境へ ほか);第3章 楽園の春画老人(セーシェル)(曙がいっぱい;驚異の観光アイランド ほか);第4章 大脱走の男(南アフリカ共和国)(なぜか南アフリカ;最悪の都市の最悪の宿 ほか);第5章 ユーゴ内戦に消えた友(旧ユーゴスラヴィア)(謎の国セルビア;「日本」といえば「ナゴヤ」 ほか)
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コメント
メモリークエスト、私も今日、本屋で見つけて一気読みしてしまいましたが、相変わらずの高野節炸裂です。
投稿: こまっちゃん | 2009年4月22日 (水) 23時50分
>こまっちゃん
素早いですね
私は今日から読み始めましたが、面白いですね
投稿: やまおじさん携帯 | 2009年4月23日 (木) 12時13分