【読】「もの出す人々」から見たアジア考現学
昨日から読んでいる本のサブ・タイトルである。
「考現学」の字が、MS-IMEのかな漢字変換ではでてこない。
やはり造語なのだろうか。
南伸坊とか、あのあたりの人たちが言いだした言葉かもしれない。
(『ハリガミ考現学』 なんて本があって、私は好きだったが)
「もの出す人々」 とは、言いえて妙である。
椎名誠氏は、「くう、ねる、のむ、だす」 と言ったが、人間にとって基本的でたいせつなことなのだ。
『東方見便録』
― 「もの出す人々」から見たアジア考現学 ―
斉藤政喜(文)/内澤旬子(装幀、イラスト、本文レイアウト)
小学館 1998年 302ページ 1500円(税別)
著者の斉藤政喜氏は、シェルパ斉藤というペンネームだった。
そこで思いだした。
ずっと前に、『シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅』 というこの人の本を読んだことがあったのだ。
自称、バックパッパー。
八ヶ岳に自らの手で家を建てて住んでいるという。
(この本の中でも、八ヶ岳の家での排泄物処理について触れていて興味ぶかい)
斉藤氏の本文もさることながら、文をそえたイラストを描いている内澤さんが、とてもいい。
彼女の細密なイラストと文をコピーして、ここに載せたいぐらいだ。
この本のカバーに印刷されている澄まし顔の写真(美形である)からは考えられないほど、ユーモアがあり、大胆さを持ち合わせた旅慣れた人のようで、ファンになってしまいそうだ。
内澤さんについては、いずれあらためて書くこともあるだろう。
全部で八章からなる。
それぞれ、中国、サハリン、インドネシア、ネパール、インド、タイ、イラン、韓国と、アジア圏を二人で歩きまわって、ひたすらトイレ事情を見てまわるという、考えようによっては贅沢な旅。
アジアのトイレ事情は、ひと昔まえの日本の厠(かわや)を思いださせて、なにやらほっとする。
いまやシャワー付き水洗便所の便利さに慣れきって、すっかり堕落してしまったわが身が悲しくなる。
こどもの頃、田舎の便所は外にあって、木でつくられた簡単なものだった。
今でも古い山小屋などでは排泄物の行方とその後の処理方法が目に見えて、人間的とも言えるが、水洗便所でジャーっと流してしまっているようでは、じぶんの出したブツがどこへ行ってどう処理されるのか、その行方を思いやることもなくなってしまった……。
本書の各章の節タイトルには、「第1便」「第2便」……と振られていて、なにやらおかしい。
この「便」はあくまでも「ベン」と読むべし。
沢木耕太郎の名著 『深夜特急』(新潮社 1986年) は、「第一便 黄金宮殿」「第二便 ペルシャの風」「第三便 飛光よ、飛光よ」 (ビンである)というぐあいで、言ってみれば芥川賞的世界だが、こちらは、なんたって 「エンタメ・ノンフ」 、直木賞の世界である。
節のタイトルのいくつかを紹介しておこう。
これだけでも、この本の楽しさが伝わるのではないかと思うので。
(中国) 流しそうめんスライダー/上海特製簡易式トイレ/天安門広場に273の穴/薄暗がりに男の尻3つ/不思議便座と高齢化社会/焚き火式集団放尿の図……
(サハリン) 木製便座にアジアを見た/個室と美女とバケツと/北の和式便器は治外法権
(インドネシア) 水と左手で尻を洗う法/全方位開放トイレの恐怖/神の御許で排泄すれば/足元グラグラ止まり木式/ウンチリサイクルは魚で/黄色いウンチ魚を食う
(ネパール) ブタトイレを求める旅へ/思い出のあの白いウンチ/空港の女子トイレ潜入/枯れ葉トイレの安らぎ……
半分ほど読んだところ。
こういうノンフィクションはいいものだ。
電車通勤の友。
― e-honサイトより ―
斉藤 政喜 (サイトウ マサキ)
1961年長野県生まれ。一人旅と野宿を愛するバックパッカー&作家。八ヶ岳山麓に自らの手で家を作り、田舎暮らしと旅暮らしの日々を過ごしている。著書に、「犬連れバックパッカー」(小学館)「野宿の達人、家をつくる」(地球丸)「シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅」1~5(小学館文庫)など。
内沢 旬子 (ウチザワ ジュンコ)
1967年神奈川県生まれ。東アフリカ、イスラム諸国を始め、各国の古本、装飾、様々な道具を収集して巡るイラストルポライター。共著に下川裕治編「アジア路地裏紀行」(徳間文庫)「遊牧民の建築術」(INAX出版)がある。
この本の文庫版はこちら
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000030808915&Action_id=121&Sza_id=Z2
東方見便録 「もの出す人々」から見たアジア考現学
文春文庫
斉藤政喜/著 内沢旬子/著
出版社名 文芸春秋
出版年月 2001年4月
ISBNコード 978-4-16-715717-3
(4-16-715717-9)
税込価格 630円
頁数・縦 429P 16cm
分類 文庫 /日本文学 /文春文庫
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― Wikipediaより ―
考現学(こうげんがく、the study of modern social phenomena)とは、現代の社会現象を場所・時間を定めて組織的に調査・研究し、世相や風俗を分析・解説しようとする学問。考古学をもじってつくられた造語、モデルノロジー(modernology)。
考現学は、1927年(昭和2年)、今和次郎が提唱した学問である。今はそれまで柳田國男に師事し、民俗学研究の一環として民家研究などで業績を挙げていたが、本人の語るところによると考現学研究のため柳田に「破門」されたという。その研究のはじまりは、1923年(大正12年)の関東大震災後の東京の町を歩き、バラックをスケッチしたことからであった。
これを機に新しく都市風俗の観察の学問をはじめ、1925年(大正14年)には「銀座街風俗」の調査をおこなって雑誌『婦人公論』に発表した。「考現学」の提唱は、1927年の新宿紀伊国屋で「しらべもの(考現学)展覧会」を催した際のことであった。1930年(昭和5年)には『モデルノロジオ』が出版されている。今の提唱した「考現学」の発想から、生活学、風俗学、そして路上観察学などが生まれていった。
「考現学」関連図書
泉麻人『「お約束」考現学』ソフトバンククリエイティブ<SB文庫>、2006年
鷲田清一『てつがくを着て、まちを歩こう ファッション考現学』筑摩書房<ちくま学芸文庫>、2006年
辰巳渚『なぜ安アパートに住んでポルシェに乗るのか ミステリアス・マーケット考現学』光文社<Kobunsha paperbacks>、2004年
斉藤政喜・内沢旬子『東方見便録 「もの出す人々」から見たアジア考現学』文藝春秋<文春文庫>、2001年
江夏弘『お風呂考現学 日本人はいかにお湯となごんできたか』TOTO出版、1997年
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