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2009年5月31日 (日)

【楽】休日の午後に聴いたインド音楽

インドの古典音楽が好きだ。
北インドのシタール、南インドのヴィーナ、ムリンガンダムやタブラといった打楽器、サーランギなどの弦楽器。
どれもが一見素朴な構造ながらよくできた楽器で、不思議に奥深い音色を響かせる。

インド古典音楽の歴史は長く、音楽理論も完成されているという。
難しいことは知らなくても、体の深いところに沁みこんでくる音楽である。


Veena_virtuoso「南インドのヴィーナ バーラチャンダー」
 キングレコード 1982年
 K20C-5119-20 (2枚組LP)
 監修:小泉文夫/草野妙子

 S.バーラチャンダー (ヴィーナ)
 R.ラメシュ (ムリガンダム)
 S.B.S.ラーマン (タンブーラ)

 1982/3/22 キングレコード第1スタジオで録音


― このレコードの解説(草野妙子)より ―
 ヴィーナ (veena)
南インドの代表的な撥弦楽器。丸く大きな胴は、固いはらみつの太い木をくり抜いて作られ、太く幅の広い棹の部分も同じ種類の木で作られる。棹の部分にはフレットがあるが、このフレットは、かなり厚みのあるものから、高音のためのフレットに至るに従って幅も狭く低くなっていく。棹の頭部は糸蔵がありその先には、反り返るような形で龍の頭の木彫りが付いている。最低音のフレットの部分の真下にあたる部分に、棹をささえるためと、共鳴器の役をする胴よりも小型のかぼちゃまたはふくべが取りつけられている。フレットの上部は金属製で24個ある。これらのフレットは、炭の粉とみつろうを練り固めたワックスの上に固定されている。弦は金属弦で、全部で7本。旋律弦の4本はフレットの上にのっている。残りの3本は、ドローン効果のためと拍子を刻むための弦で、側面の糸巻に付けられ、サイド弦と呼ばれ、つねに開放弦で使用される。……


そういえば、小泉文夫さんの著書に、このヴィーナのことが書いてあったのを思いだした。

Koizumi_fumio_minzokuongakukikou『エスキモーの歌 民族音楽紀行』
 小泉文夫  青土社 1978/5/15発行
 324ページ 1600円(税別)

小泉さんの語り(ずっと前、ラジオ番組でよく聞いていた)も文章も、わかりやすく優しくて、いい。
かなり長い引用(転載)になるが、小泉さんが若い頃インドで学んでいたときの美しい話をぜひ紹介したい。

― 同書 III 民族楽器を訪ねて 「光の庭」 ヴィーナ より ―

< その晩は、ディーパーヴァリー、つまり南インドの光の神の祭りだった。(略)
 或る大きな邸の門の前を通ると、扉が半分ほど開いていた。(略)
 中に入っていくと、この家の主人と思われる男が一人、庭に椅子を持ち出して池を眺めていた。
「何か御用ですか」
「いえ、貴方の庭があまりに美しいので、もっとよく見たいと思って」
 (略)
 主人は椅子から立ち上がって近づきながら、
「貴方はここで何をしていますか」
 ときいた。
「貴方の美しい庭を見ています」
「いいえ、貴方は外国人でしょう。この町で何をしている人です」
「ヴィーナを勉強しているんです」
「ヴィーナ? 貴方は商人ではなく、音楽家ですか? 偶然だ。ヴィーナを習っている外国人がうちに来るなんて」
 主人はそういうと、家の方に向って、タミル語で何かいった。そして若い美しい娘がテラスから庭へ降りて来た。まるで芝居の中の一コマのような具合に。
「この娘の名前は、ヴィーナです」
 (略)
「ヴィーナさん。貴女はもちろん、ヴィーナを上手に演奏なさるんでしょうね」
「いいえ、それが全然奏けないんです。習いたいと思ってますけど」
「だったら、僕の行っている音楽学校に何故来ないのです」
 主人がいった。
「ミスター。貴方は外国人で事情がわからないんだ。ヴィーナは、ブラーミン(婆羅門)の楽器だから、私のような商人の娘では、習うことが出来ない。貴方の学校の先生も生徒も、みなブラーミンでしょう」
 (略)
 何ヵ月も経ってから、私はヴィーナの歴史を調べてみた。(略)
 ヴィーナを演奏する人間も、時代や地域によってまちまちで、…(略)…。したがって南インドの最上階級のブラーミンたちが、ほとんど独占しているようにみえるヴィーナも、実は、ヴィーナがブラーミンの楽器だからではなく、逆に、ブラーミンはヴィーナしか、楽器らしいものを持っていないからである。ブラーミンは殺生を忌むので、皮や腸を使う楽器をきらう。また管楽器のように口をあてるものをも不浄としてさける。その結果、木と金属だけの撥弦楽器ヴィーナに専念することになるのだ。
 商人の娘、ヴィーナさん。貴女がブラーミンからヴィーナを取りもどし、心ゆくまで奏でる権利は、歴史が証明しているのです。祭りの晩にフラッと貴女の庭をたずねた時そのことをいってあげることが出来たら、と残念に思っています。 >

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コメント

いいお話ですね。すぐに「エスキモーの歌」を東京の古本屋へ注文してしまいました。
インドの階級制度は、我々の想像を超えています。私もインドへ旅してから、18年になりますが、いまだにインドのことを忘れられません。
ヴィーナの音色は、レコードこそふさわしいでしょうね。

投稿: 玄柊 | 2009年5月31日 (日) 19時03分

シタール弾きなら知り合いにいます。

田中峰彦さん
http://homepage1.nifty.com/mineral-t/

動画、あまり目立ちませんが・・・
http://www.youtube.com/watch?v=l_HA04pYVpo
おおたかさんの後ろにいてます。

投稿: こまっちゃん | 2009年5月31日 (日) 19時52分

>玄柊さん
小泉文夫さんの本はいいですよ。
小泉さんの生前、NHK-FMで世界の民族音楽を紹介するラジオ番組があって、よく聴いていました。
録音したカセットは今でも大切にとってあります。
がんで亡くなったときはショックでした。
今年でもう26年になります。

>こまっちゃん
おおたか静流さんの映像、アジアの楽器が勢揃いという感じでいいですね。
タブラを叩いている女性もなかなかです。
シタール奏者の方は、以前教えていただいた方ですね、たしか。
いつもいろいろ教えていただき、ありがとうございます。

投稿: やまおじさん | 2009年5月31日 (日) 20時38分

Wikipediaで調べてみて、あらためてわかったのですが、小泉文夫さんが亡くなったとき、56歳だったとか。
今の私よりも若かった……。

投稿: やまおじさん | 2009年5月31日 (日) 20時42分

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