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2009年6月21日 (日)

【読】読了 『デルスウ・ウザーラ』

とうとう読みおえた。
しんどかったな。
こういう本を通勤電車の中でこま切れに読みつづけるのはつらい。
ある程度の集中が必要な本だから。

最後の100ページは、週末にまとめて読むことができた。
おかげで、いい印象が残った。

Derusuu_uzara『デルスウ・ウザーラ 沿海州探検行』
 ウラディーミル・クラウディエヴィチ・アルセーニエフ 著
 長谷川四郎 訳
 平凡社 東洋文庫 55
 1965/11/10初版第1刷 / 2004/1/27初版第18刷

アルセーニエフは、1872年に生まれ1930年に亡くなったロシア極東地域の探検家。
1906年以後、ウスリー地方を調査旅行して記録を残している。
本書は、1907年春から翌年1月にかけて、ほとんど徒歩で沿海州南部を探検した記録。
冬には氷点下三十数度にもなる、過酷な土地である。
まさに、探検と呼ぶにふさわしい。

アルセーニエフは、デルスウ・ウザーラという名のゴリド族(ナナイ族)の男を同行した。
この探検隊のいわばガイド役である。
デルスウは「天然痘で身内のものをみんな失い、一人で狩猟をして生計をたてている、ずんぐりした六十歳ちかい男」 (巻末、長谷川四郎による解説)。

<彼は出会いの当初からアルセーニエフをひきつけた。 以来、彼はアルセーニエフの道案内となり、また、密林(タイガ)における生活方法の教師となった。> (同解説)

エスキモーやアイヌの古老をおもわせる、魅力的な人物である。
デルスウは古老と呼ぶほど老いてはいないが(58歳だと自称している箇所がある)、独自の世界観をもっている。

星野道夫さんがこの本を愛読したというのも、そんなデルスウに代表される 「土地の人々」 の魅力によるところが大きかったのだろう、と思う。
それに、舞台となっている自然生態がアラスカに通じるところもある。

アラスカではムースと呼ばれているヘラジカが、沿海州のあちこちにいる。
ネットで調べてみると、ヘラジカの世界的な分布は、ヨーロッパ北部からシベリア、中国大陸東北部、北アメリカ大陸の北部と、ちょうど帯状に広がっていることがわかる。

私にとって馴染みのある動植物もたくさん登場して、嬉しかった。
ワタリガラス、ライチョウ、シマフクロウ、といった鳥たち。
コケモモ、クロマメノキなどは、八ヶ岳の山の上でよくみかけたものだ。
オンコ(イチイ)やナナカマドも懐かしい。


長谷川四郎の訳文もいいのだろう。
美しい描写が随所にある。

<晩の十時にユルタを出て、私は思わず空に心をひかれた。 空気の特別の清澄さのためか、それとも、何かべつの原因によってか、星の光がいつもより大きく明るくみえ、そのため空は地上より明るかった。 近くの山々の輪郭やエゾマツの木のとがった頂きはくっきりとみえたが、下のほうはすべて暗黒の中に沈んでいた。 定かでない、ほとんど耳にとらえられない音が眠れる大気をみたしていた。 夜の鳥のとぶ音、枝から枝へおちる雪、枯草にゆらぐ軽い微風のさらさらいう音――これらすべてが一つになっても、自然をみたしている大きな静寂を破ることはできなかった。> (二十一 冬の祭日 P.266)

この物語の結末は悲しい。
黒澤明監督による日ソ合作の映画(1975年)を観ていない私は、悲劇的な結末を知らなかったから、なおさら印象的だったのかもしれない。

<デルスウの墓、とける雪、とんで日没には死ぬだろうチョウ、さらさら音たてる小川、いかめしい静かな森……すべては語っていた――、絶対的な死は存在しない。 相対的な死があるだけだ。 そして地上における生の法則が同時にまた死の法則である、と。> (二十四 デルスウの死 P.303)

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コメント

私はこの原作を読んでいますが、黒沢の映画の封切りも見ました。黒沢映画としては成功作とは言えませんが、黒沢がなぜこの原作が好きだったかは、よく分かりました。

投稿: 玄柊 | 2009年6月23日 (火) 07時12分

>玄柊さん
私も機会があればこの映画を観てみたいと思います。
今読んでいる『虎山へ』がとてもいいです。
ちょうど星野道夫さんがカムチャッカ半島でヒグマに襲われて亡くなった年(1996年)、テレビ番組の取材の話で、この本の中でも星野さんの事故に触れています。

<この年の八月、写真家でありエッセイストである星野道夫さんが、カムチャッカ半島クリル湖畔のテントで就寝中、ヒグマに襲われて亡くなった。トラやクマがうろうろしているこのフンタミも状況は同じことだ。星野さんの一件もあり、僕らは小屋で寝るようにいったが、ヴィーチャは大丈夫、ここがいいと言い張った。……>(P.87- さすらう仔グマ)

投稿: やまおじさん | 2009年6月23日 (火) 21時25分

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