【読】サバイバル登山家
北海道でおおきな遭難死亡事故があった。
どうしんウェブ 北海道新聞
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/177700.html
大雪山系で10人死亡 トムラウシ9人 夏山で過去最悪
(07/17 08:15、07/17 14:28 更新)
トムラウシ山も美瑛岳も私にはなじみのある山だけに、やりきれない。
(トムラウシまでは行ったことがないが、その周辺は高校山岳部にいた頃歩いていたので、どんな山かという知識は持っている。決して楽な山ではない)
疲労凍死ということだろう。
亡くなった方々やご家族はほんとうにお気の毒だが、私は、ツアー登山という山登りの方法が問題だと思う。
(今回はガイドの責任も大きいが、それ以前に、ツアーの在り方に問題があったと思うのだ)
ところで、そのツアー登山と正反対の山登りを追求し続けている登山家がいる。
服部文祥さんという1969年生まれの人で、自ら 「サバイバル登山」 と呼んでいる。『サバイバル登山家』 服部文祥(はっとり・ぶんしょう)
みすず書房
2006/3/19 第1刷発行/2009/3/25 第9刷発行
257ページ 2400円(税別)
カバー写真が衝撃的。
著者の服部さんが岩魚の皮を剥いているところで、このように歯をつかうときれいに剥けるという。
今年読んだ本のなかでも筆頭クラスの、印象ぶかいものだった。
序章 知床の穴
春期知床半島全山縦走 1993.3.25-4.12
<朝起きるとテントの中が妙に広く、低気圧はまだ来ていないようだった。/入り口を開けて外を見ると、空はどんよりと曇っていて、半雪洞の周りには覚えのないゴミが不自然に散らばっていた。/それは乾燥米の袋だった。その横にはチョコの包装ビニールが落ちていた。寝ぼけたままで、手を伸ばすと、飴、カロリーメイト、もう一度チョコ。すべてなんだか見覚えのある食べ物のカスばかり。……>
<もう一度外を見て、またテントの中を見た。慌てて、靴も履かずにテントを飛び出すと雪面にはキツネの足跡が乱れていた。膝をつき、雪の上に散らばった乾燥米を手で集めてみた。雪と混ざっていてもう話にならなかった。……>
<入山して七日目、羅臼岳を越えて、ようやくゴールが見えはじめ、やる気が湧いてきた矢先のアクシデントだった。……出発前、僕の登山人生最後になるかもしれないと思っていた長期山行はキツネに食料を盗まれたために終わるのだ。しかも、自分が寝ていたテントの中から抜き取られたのである。> (P.11-12)
服部さんが大学生の時に試みた、知床半島海別岳から知床岬までの単独縦走の七日目のできごとだった。
半雪洞のなかにテントを張って、接近していた低気圧をやり過ごそうとしていたとき、キタキツネがテントを牙で裂き、眠っているあいだに十四日ぶんの行動食を袋ごと持ち去ってしまったのである。
いったんは「これで終わりなんだ」と思い、下山も考えたが、彼はそのまま知床岬まで歩き通した。
のちに、この知床全山縦走をふりかえって、こう書いている。
<食料を奪われた直後、僕はキタキツネが憎くてしょうがなかった。見つけたら捕まえて皮を剥いで食べてやろうとまで思っていた。……/あの日僕は、接近する低気圧をやり過ごすために停滞しようとしていた。食料を奪われたために、日程に余裕がなくなったので出発したのだ。その結果、あのあとのみぞれ三日間と三八豪雪以来と言われた嵐の三日間を、知床連山でももっとも標高の低いルサ乗越付近で迎えることになった。もし食料を盗まれずに停滞していたら、羅臼岳の半雪洞で荒天の六日間を耐えなくてはならなかったかもしれない。……>
<もう十年近く前のことだ。キタキツネの彼(もしくは彼女)ももこの世にはいないだろう。いや、うまくやっていれば、子孫のなかに薄まって生きている。人が眠っているテントから食料を盗み出せるのだから、うまくやってないはずがない。> (「サバイバル始動」 P.63-64)
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