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2009年11月11日 (水)

【読】船戸ワールドの魅力

残すところ100ページばかりとなった。
おもしろくてたまらない。

こういう小説をおもしろいと感じるかどうか、人それぞれの好みの問題であることはとうぜんだが、私にはたまらなく魅力的だ。

Funado_vietnam船戸与一 『蝶舞う館』
 講談社 2005年刊

船戸ワールドの一端を、登場人物の会話から。
船戸さんの歴史観、世界観がよくあらわれている部分だ。
長い会話なので、一部省略する(……の部分)。

 「……おれが東南アジアの現代史に興味を持ったのは祖父のことがあるからなんです。日本人は二百万人を餓死させたとされる占領政策でベトナム人には評判が悪い。しかし、……第二次大戦で日本軍が無条件降伏したあと、日本のインドシナ駐屯第三十八軍・独立混成第三十四旅団のうち七百六十六人がベトナムに留まった。フランスと戦うためにベトミンに入隊したんです。……つまり、ディエンビエンフーでのベトナムの勝利には少なからず日本人が貢献してる。独立混成第三十四旅団の参謀だった井川省(いがわあきら)という少佐はクァンガイ陸軍士官学校の創設に協力してます。そこで教育を受けた……がこう証言してる。ベトミンの青年は独立意識や社会主義の理想には詳しかったが、実戦の知識にはまるで疎かった。作戦命令書の作成。壕を掘る技術。戦闘指揮。夜間戦闘技術からゲリラ戦まで。それらは日本人を教師とするクァンガイ陸軍士官学校で教わったとね。……」
 「それで、きみの祖父というのは?」
 「戦死しました。井川省参謀とともにフランスのアンブッシュ攻撃を受けてザライ省の省都プレイクの近くで」  (本書 249ページ 第三章 殺戮の牙)

 「モンタニャール問題はベトナムのアキレス腱だ。……」  (321ページ 第四章 中部高原の渦)

 ※モンタニャールとは、ベトナムの中部高原地帯に住むバナ族やエデ族、ザライ族などの少数民族を指す。この小説の舞台。

 「きみと瀬戸くんの中部高原からの追放はベトナムという国家が命じてるんだ。国家の意思がそうである以上、もう動かすことはできない」
 「国家なんてただの幻想に過ぎない」
 「そのとおりだ、国家というのは幻想でしかありえない。だが、ベトナム社会主義共和国という幻想の背後には無数の死体が横たわってる。死者たちの霊によって支えられた幻想はそれなりの実体を持って機能する。軍隊やら公安局やらが現実の物理的な力を振るって動きだしているんだ。個人が国家に逆らえるわけがない」  (337ページ 同上)


船戸さんの長編小説には、いつもたくさんの参考文献が載っている。
幅広く綿密な文献調査と、徹底した現地取材に裏打ちされた小説世界なのだ。
ノンフィクションという形式をとらないのは、フィクションでしか語れないものがある――というのが船戸さんの考え方だ。

 →2009年2月20日 (金) 【読】もうすぐ読了(船戸与一『満州国演義5』)
   http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/5-2b45.html


私には、教科書的な歴史書や案内書より、船戸小説のほうがよほど信頼できるし、そこからたくさんのことを学んできた。
ここしばらくは、船戸ワールドに浸りたい気分である。
あらたにまた、数冊仕入れてしまった……。

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