【読】船戸与一の重厚な小説――読了『夢は荒れ地を』
きっちり一週間かかった。
623ページの重厚な小説。
これまで読んだ船戸与一作品のうち、私にとっては 『蝦夷地別件』 に次いで感動的なものだった。船戸与一 『夢は荒れ地を』
文藝春秋 2003/6/15発行
(初出 「週刊文春」 2001/11/15号~2003/4/24号)
623ページ 1905円(税別)
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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163219102
内容(「BOOK」データベースより)
暴力はどこまで許されるのか?PKOで派遣されたカンボジアの地で現地除隊した元自衛隊員。彼がそこで夢見た“正義”とは…。
物語の舞台は、現代カンボジア。
有給休暇を使ってカンボジアを訪れた現職の自衛官、楢本辰次。
彼は、個人的な桎梏に決着をつけるため、ある人物を探しにここを訪れた。
その人物は、元自衛官の越路修介。
越路は、PKOで派遣されたカンボジアの地で現地除隊したまま行方が知れなくなっている。
この物語の主役だ。
彼がカンボジアでやろうとしている壮大な計画がこの物語の核心。
もうひとり、丹波明和という人物が重要な役割で登場する。
丹波は、孤児としてキリスト教メソジスト教会に引き取られ、やがて牧師となって布教活動をしていたが、その中でどうしようもない矛盾を感じ、カンボジアに渡って「カンボジア子供塾」という、識字率向上運動をしている。
この三人の日本人が柱だが、ここに、元クメール・ルージュで、いまはカンボジア王国陸軍大尉のチア・サミンや、楢本が現地で雇ったクメール人のヌオン・ロタ、丹波の「カンボジア子供塾」を手伝う三人の日本人学生、考古学の研究のためにカンボジアに入ってそのまま腰をすえた田丸牧子、……といった、魅力あふれる人物たちが加わって重厚な物語を織りなしている。
これは船戸さんの小説の特徴だが、物語の構成がわかりやすく、複数の登場人物の視点から描かれているため、読みすすむにつれて、ぐいぐいと引きこまれていく。
とくに、この小説はよくできていると思う。
こういう小説を読んでしまうと、次に何を読もうか困ってしまう。
さいごに、この小説に込められた作者・船戸与一の思いをあらわしていると言える、登場人物の会話を。
「あまりにも長いあいだ影を視ている人間は影そのものになってしまう」
「何なんだね?それ?」
「クメールの古い諺だよ。光の当たっているものには影ができる。その影とはもうひとつの現実だ。カンボジアの現実とは殺しあわないかぎり何も解決できないという原則だよ。あんたはその原則の実践者となった。もうどこにも引き返せない」
(本書 P.542 「崩れ落ちた瓦礫のなかで」)
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