【読】いよいよ佳境 船戸与一「新・雨月」
下巻の四割ぐらいまでこぎつけた。
戊辰戦争当時の人名がやたらたくさん出てくるのでたいへんだが、さすが船戸小説。
おもしろい。船戸与一 『新・雨月』 (上・下)
― 戊辰戦役朧夜話 ―
徳間書店 2010/2/28発行
508ページ/496ページ
各 1900円(税別)
月刊「問題小説」 2008年1月号~2009年10月号連載作品に大幅加筆訂正。下巻第七章以降は書き下ろし。
題名の「雨月」は、上田秋成の『雨月物語』にひっかけているのだろうが、そのココロは、ここでは明かさない。
船戸さん一流の筋立て、構成である。
三人の主人公の視点から交互に状況を描いていくというやり方だ。
物部春介(及び、途中から彼と行動を共にする女・モモ)、奥垣右近、布袋の寅蔵。
いずれも魅力的な人物だ。
歴史小説だから、とうぜん歴史上の人物も多数登場する。
荒唐無稽のフィクションではなく、史実をベースにしているのだ。
ちょうど、『蝦夷地別件』や『満州国演義』のように。
西郷吉之助や板垣退助、木戸孝允、榎本釜次郎などは直接登場しないが、土方歳三、山県(山縣)狂介、その他多数登場。
私は歴史に詳しくないので知らないだけだが、かなり綿密に描かれていると思う。
どれも皆、クセのある人物ばかりで、幕末・維新期に活躍した大物たちの不気味さをひしひしと感じる。
それにしても、戊辰戦争とは、ずいぶんひどい内戦だったのだな、と思う。
会津藩が、周囲の同盟藩(奥羽越列藩同盟)に次々と裏切られ、孤立していくさまが痛々しい。
ちなみに、当時、「藩」という呼び方はされていなかった、というのがほんとうらしいが、この小説では「何々藩」の呼称を使っている。
登場人物たちの会話も現代風だが、それもやむをえないと思うし、かえってリアリティーがあって好もしい。
いわゆる「歴史小説」とは、ずいぶんちがうと思う。
ダイナミックなのだ。
これこそ「船戸史観」であり、船戸流「叛史」の醍醐味だろう。
『新・雨月』 各章題
いかにも船戸与一風だ。
(上巻)
序章 奔馬駆け抜けて
第一章 慶応四年三月、その秘められし
第二章 慶応四年四月、その妖かしの
第三章 慶応四年閏四月、その乱れたる
第四章 慶応四年五月、その狂おしき
第五章 慶応四年六月、その遥かなる
(下巻)
第六章 慶応四年七月、その呪われし
第七章 慶応四年八月、その悍(おぞ)ましき
第八章 慶応四年九月、その空蝉の
終章 月影、朧朧と
巻末の参考文献が、いつもながらすごい。
よく調べたなあと、感心する。
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