【楽】【読】浅川マキとビリー・ホリデイ
今年1月に急逝した浅川マキさんが遺したエッセイ集 『こんな風に過ぎて行くのなら』 を読んだ。
連休明け、ひさしぶりに五日間勤務の週のなかば、くたびれ気味だったから、きっと読みやすい本をこころが求めていたのだろう。
きのうから一日ちょっとで読むことができた。浅川マキ 『こんな風に過ぎて行くのなら』
― ASAKAWA MAKI 1971-2003 ―
石風社 2003/7/15発行
211ページ 2000円(税別)
♪ こんな風に過ぎて行くのなら
いつかまた
何処かで誰かに出会うだろう
何もかも隠してくれる
夜の帳(とばり)をくぐり抜ければ
今夜ほど寂しい夜はない
そうさ
今夜は世界中が雨だろう ♪
(浅川マキ作詞・作曲 「こんな風に過ぎて行くのなら」)
この人の文章は、お世辞にも上手とは言えないが、味がある。
一読して思ったのは、こういう生き方をしていたら早死にするだろうな、ということだった。
マキさんは公演先のホテルで倒れているのを発見され、死因は急性心不全だった。
彼女が敬愛していたビリー・ホリデイを彷彿させる。
あるいは、ジャニス・ジョプリンの死にかたを思いおこさせる。
この本のはじめの方に、ビリー・ホリデイに触れた文章がある。
とても興味深かった。
「ビリーなら今頃どっかの港町」
― 初出 『奇妙な果実』(晶文社)書評 「構造」1971年6月号 経済構造社 ―
<ビリー・ホリデイの「身軽な旅」のレコードをかけながら、十四年ぶりに再版された、ビリー・ホリデイの自伝『奇妙な果実』(油井正一・大橋巨泉訳 晶文社)を、こうして手に持って、薄暗い部屋で、わたしは何やら、どうしようもない気持になって来るようだ。
ビリー・ホリデイのはなしはもうよそう。
何度もそう思いながらね。> (本書 P.25)
という書き出しではじまる、17ページほどのエッセイだ。
晶文社から出版された 『奇妙な果実』 という本は、私も持っている。
だが、この最初の翻訳の邦題が 『黒い肌』(1957年刊、訳者は同じ)というものだったことと、目次の内容が微妙にちがっていたことを、マキさんの本ではじめて知った。
<いつの春にか、十五の父と十三の母、死人の腕の中に、女郎屋の音楽、浮気な小娘、強姦の傷手、カトリック修道院、過ぎしひのまぼろし、従姉の無残な死、大都会の迷い子、女中奉公、ブロードウェイの娼婦生活、いやらしい黒人客、ウェルフェア島の監獄、希望に燃えて、歌手への第一歩、禁酒法下のナイトクラブ――十四年前に発行された初版(『黒い肌』訳者同じ)の方には、そんな目次があった。> (本書 P.28-29)
なんとも生々しいというか、おどろおどろしいというか。
黒づくめのイメージが強い浅川マキと、ビリー・ホリデイの暗い生涯が、なんとなくオーバーラップしてくる。
『奇妙な果実』 という邦題は、よく知られている、ビリー・ホリデイが歌った 「奇妙な果実」(Strange Fruit)に依っている。
「人種差別とリンチによって殺された黒人が木に吊るされている、残酷でおぞましいアメリカ南部の景色」(Wikipediaより)を歌った、とても暗い歌だ。
たしか、マキさんもレコーディングしているはず。
私が若い頃、友人にすすめられて買った本。
長いあいだずっと本棚にあったような気がする。
たぶん、通読していないと思う。
何度かの引っ越しのときにも手放すことなく、てもとに残ったこの本を、いま読んでみようと思う。『奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝』
油井正一・大橋巨泉 訳
晶文社 1971/2/27 初版発行
309ページ 1200円
原題 "LADY SINGS THE BLUES" (1956年出版)
Billie Holiday and William Dufty
晶文社から日本語訳新装版がでている(1998年刊)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000028365860&Action_id=121&Sza_id=C0
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コメント
高校の図書館にあったので読みました。なにかの全集の中に収録されていました。その後の晶文社のも、手元にあります。高校生のころは金子ふみ子と並んで、生き方のモデルだったような・・・。当時の旭川のジャズ喫茶というと四条六丁目あたりの店が真っ先に浮かんできますが、名前がK音で始まるのだったかなあ・・・。
投稿: みやこ | 2010年5月13日 (木) 13時32分
>みやこさん
それはきっと「世界ノンフィクション全集」でしょう。
当時、旭川にもいくつかジャズ喫茶があったようですね。
私は「CAT」ぐらいしか知りませんが(それも高校卒業後にはじめてはいりました)。
投稿: やまおじさん | 2010年5月13日 (木) 21時12分