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2010年9月12日 (日)

【読】五木寛之 選評集

気になる本だったので、思いきって購入。
価格も手頃だった。

Itsuki_senpyou五木寛之 『僕が出会った作家と作品』  五木寛之選評集
 東京書籍 2010/9/7発行
 691ページ 1500円(税別)

つい先ごろ、五木さんが直木賞の選考委員を辞退したニュースを耳にした。
自らの選評でミスを犯したことの責任をとる、ということらしい。
五木さんらしいけじめのつけ方だと思った。

そういえば、五木さんが辞任するきっかけとなった、今回の受賞者・佐々木譲氏は、これまで何度も候補にあがりながら受賞を逃し続けてきた。

他にも受賞タイミング(受賞作)がおかしいと思われる実力のある作家として、私は船戸与一氏をあげたい。
第123回直木賞を受賞した船戸さんの 「虹の谷の五月」 は、他の船戸作品と比べてぬきんでていると思わない。
五木さんの選評も私の感想に近く、納得した。

<船戸与一さんの「虹の谷の五月」は、これまでいくつか読む機会のあった船戸ワールドの諸作品とくらべて、ぬきんでた秀作とはいえないというのが私の感想である。>
 (P.157 直木三十五賞 第123回 [2000年7月] より)

五木さんのこの本を読んでみると、直木賞を受賞するタイミングには一種の「運」もあることがよくわかる。

<少しおおげさな言いようだが、私は直木賞の選考の季節がくるたびに、直木賞とはなにか、ということを自分に確かめなおしつづけてきた。/どういう姿勢で候補作を読むか。どういう基準で受賞作を推すか。/もちろん、小説の値打ちをはかる絶対の物差しなどありはしない。そもそも小説とはなにか、ということにすら百人百様の見方があるだろう。結局は好みの問題だ、と言ってしまいたくなるようなところもある。>
 (P.57 直木三十五賞 第94回 [1986年1月] より)

同じ選評の続きで、五木さんは直木賞の選考に関するご自身の姿勢についてこう書いている。

<しかし、こと直木賞の選考に関してだけは一貫した姿勢をもちたい。自分んで納得のゆく考え方にそって受賞作を推したい。そう思って毎回、候補作を前にするたびに同じ思いをくり返してきた。おまえはどういう立場で先行の席にのぼむのか、と。/答はなかなか出てこない。だが、いくつかはっきりしていることはある。たとえば、直木賞という賞は新人賞である、という考え方がひとつ。/私は候補作をその作家の隠された鉱脈の一部として読む。どんなに完成度の高い作品であっても、その人が今後それをしのぐ豊かな仕事を見せてくれそうだという予感がなければ推さない。感心して敬意を表するだけにとどめておく、直木賞は功労賞ではないと考えるからである。完成度よりも可能性に期待しながら読む。鉱脈を探っているのだ。鉱石の品質を計っているのではない。だから毎回、不安である。撰者がためされていると感じるからだ。>
 (P.57-58 同上)


そもそも、新進作家に対して授賞するはずだった直木賞が、ベテラン作家に与えられるようになったのも、私には腑に落ちない。
(下にあげたリンク先 「直木賞のすべて」 →「直木賞」とは何か? に、菊池寛による設立趣旨が引用されているが、その後、時代とともに選定基準が変わってきたようだ)

椎名誠氏など、とっくに受賞していておかしくない作家だと私は思うのだが、五木さんの興味ぶかい選評がある。

<椎名誠氏はすでに一家を成した作家である。直木賞を云々することが失礼のような気がしないでもない。ましてこれまで世評の高い佳作が沢山あるのに、今回の候補作のような軽い小粒の短編で受賞しては、ご本人も不満だろう。直木賞を大袈裟に言うわけではないが、やはりその作家の代表作として人々の記憶に残る力作で賞を受けるというのが当然ではあるまいか。賞のことを抜きにして読めば、「ハマボウフウの花や風」という短編は、少年時代への郷愁と悪友同士の友情を丹念な風景描写に託して声低く語った気持ちのいい作品で、いわゆる椎名ワールドの一環をなす水準作だと思った。>
 (P.85 直木三十五賞 第102回 [1990年1月] より)


ともあれ、この選評集はなかなか興味ぶかい本だ。
巻末に受賞作品・作家索引があって、便利。

直木三十五賞の他、小説現代新人賞、九州芸術祭文学賞、日本ミステリー文学大賞、坪田譲二文学賞、江戸川乱歩賞、和泉鏡花文学賞、斎藤緑雨文学賞、吉川英治文学賞、パイオニア旅行記賞、日本旅行記賞、太陽賞、木村伊兵衛写真賞、と、多彩な賞の選考委員をつとめてきた五木さん。

ほう、こんな面白そうな小説があったんだ――そういう発見がありそうな一冊。



【参考サイト記事】

直木賞選考委員 五木寛之氏が辞意 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/100220/acd1002201112001-n1.htm

ミスのけじめ…五木寛之さん直木賞選考委員辞任の考え(芸能)
  ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
http://www.sponichi.co.jp/entertainment/flash/KFullFlash20100220058.html

直木賞のすべて
http://homepage1.nifty.com/naokiaward/

佐々木譲-直木賞受賞作家-142SJ
http://homepage1.nifty.com/naokiaward/jugun/jugun142SJ.htm

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