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2010年9月17日 (金)

【読】中村安希 「インパラの朝」

誰かがネットの書評で書いていたことだが、この本はネーミングが憎い。
まさに編集者の勝利である。

Nakamura_aki_impala中村安希 『インパラの朝』
  ― ユーラシア・アフリカ大陸684日 ―
 集英社 2009/1//18発行
 283ページ 1500円(税別)
Amazon
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087814343

久米宏のTBSラジオ番組で著者とこの本を知った。
http://yamaoji.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-24c1.html

ゲスト出演していた中村安希さんは、なかなか魅力的な女性だった。
久米宏が朗読し、絶賛していた冒頭の一節。

<私は45リットルのバックパックの底に980円のシュラフを詰めた。三日分の着替えと洗面用具、パブロンとバッファリンと正露丸を入れた。それからタンポンとチョコラBB。口紅とアイシャドウと交通安全のお守りを用意した。パソコンとマイクとビデオカメラを買い揃え、小型のリュックに詰め込んだ。果物ナイフや針と一緒に、ミッキーマウスのプリントがついた覆面も忍ばせた。そして、ジムで鍛えた両腕に四本の予防注射を打ち、体重を三キロ増やした日本を離れた。>
 (本書 序章「向かう世界」 P.16)

なかなか、かっこいいのだ。
しかし、第五章あたりまで、この人の文章が私にはしっくりこなかった。
クールというより、むしろ冷たい感じを受けたのだ。

ところが、この本の中盤、第六章でアフリカ大陸に渡ったあたりから、すこし様子がかわってきた。
著者の言う、「小さな声を求めて」という旅らしさが前面にでてきて、心を動かされるシーンが多くなる。

<マサイマラ国立公園へゲームサファリに行くことにした。二泊三日で二万円の痛い出費に耐えてでも行くと決心をさせたのは、こじらせていた風邪だった。……国立公園にいる間、私はずっと空を見ていた。もちろんガイドの指示に従い、時にはカバやキリンも見たが、それらを除けばほとんどずっと青い空と雲を見ていた。……>

<三日目の朝は早起きをして、日が昇る前の草原へ狩りの現場を見に行った。けれど私は大きなネコにさほど興味があるわけでもなく、どちらかと言えば草むらや日の出に明るむ空を見ていた。……すると、私の眼前に一頭のインパラが現れた。黄金の草地に足を着き、透き通る大気に首を立て、たった一頭でたたずんでいた。インパラは草を食むこともなく、歩きまわることもなく、緊張している様子でもなく、だからと言って気を抜いてくつろいでいるふうでもなかった。誰かに追われることもなく、何かを追いかけることもなく、静かにそこに立っていた。インパラの濡れた美しい目は、周囲のすべてを吸収し、同時に遠い世界を見据え、遥か彼方を見渡していた。>

 (第六章 鼓動――東アフリカ 「ケニア[インパラの朝]」 P.153-155より)

詩的で、いい文章だと思う。


写真から受ける印象とは裏腹に、恐るべき行動力の持ち主で、野宿などものともしないツワモノである。
そのいっぽうで、とても優しい気持の持ち主と感じた。

アフリカの子どもたちとの、いかにも自然体のふれあいに心をうたれた。
それは、第六章の 「ウガンダ[子ブタと未来]」で、ある日本人が経営する孤児院を訪れ、二週間にわたって生活をともにしたときの体験談だが、ここには詳しく書かない。
この一節だけでも、読んでよかったと思わせる本だ。


移動に飛行機を使ってはいるものの、著者の旅の範囲は驚くほど広い。

序章 向かう世界
第一章 ささやきを聴く  ヒマラヤ山系
第二章 カオス  東南アジア~インド
第三章 小道の花々  インド~パキスタン
第四章 ウオッカの味  中央アジア
第五章 悪の庭先  中東
第六章 鼓動  東アフリカ
第七章 内なる敵  南アフリカ
第八章 血のぬくもり  西アフリカ
第九章 世界の法則  サハラ北上
終章 去来

半分しか読んでいないので、全体の評価(というか感想)はまだ書けないが、残りを読むのが楽しみだ。


【2010/9/19追記】
読みおえた。残念ながら期待を裏切るものだった。
この人の行動力と旅行体験はすごいと思うが、その旅行記としてはいささかもの足りない。
「隔靴掻痒」ということばがあるが、読んでいてじれったい思いをたびたび感じた。
もっとストレートに、じぶんの思いを書けばいいのに……。
装幀のよさとタイトルに騙された、と言っては言いすぎか。

参考 中村安希さんのブログ
 安希のレポート http://asiapacific.blog79.fc2.com/

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