【読】こいつは面白い(浅田次郎「中原の虹」)
きのうから今日にかけて、一巻目の半分ほど読みすすんだ。
まだ全体(四巻)の八分の一だが、なかなかいい。浅田次郎 『中原の虹』 (一)
講談社 2006年
今日読んだ部分で、とくに印象に残ったところを引用してみよう。
<生まれ育ったこの国がいったいどんなことになっているのか、春雷(チュンルイ)は知らなかった。シベリアからやってきた何十万人もの大鼻子(ダアビイヅ)と海を渡ってきた何十万人もの東洋鬼(トンヤンクイ)が、満州の大地を戦場に変えてしまった。清国はその両方から金を貰って、戦場を貸したのだという。
そもそも満州は皇帝陛下のふるさとである。だから永らく聖なる封禁の地とされて、漢族でさえ立ち入ることはできなかった。その侵すべからざる大地で、こともあろうに日本とロシアが派手な戦をしたというのだから、話はまるでわからない。>
<満州の民を守ることができるのは、自警団として立ち上がった馬賊だけであった。みなが無知で野蛮ではあるけれども、壮士なり義士なりという呼称は、あながちお題目ではなかった。>
「 大鼻子(ダアビイヅ)」とは、日露戦争に敗れたロシア兵の残存部隊を指すことばである。
よそさまの国に土足で踏み込んだ日本軍はもちろん、日本との戦争に敗れたはずのロシア兵(コサック兵)によっても、「満洲」の地は踏みにじられていたのだ。
「坂の上の雲」が日本とロシアという軍事大国の視点からの日露戦争の物語りとするなら、この小説は、中国の民衆の立場から日露戦争後の混迷する「満洲」を生き生きと描いたものだ。
ちなみに、「東洋」とは、もともと中国から日本を指す呼称だった。
だから「東洋鬼(トンヤンクイ)」なのである。
私たちが学校で教わった歴史の授業では、「馬賊」だの「軍閥」だのと簡単に片づけられていたが、この物語に登場する、張作霖(チャンヅオリン)や馬占山(マーチャンシャン)といった「馬賊」の男たちの、なんと魅力的なことか。
中国語の地名や人名の読み方が難しいのだが、ルビがふんだんに振られているので、ありがたい。
これからしばらくのあいだ、どっぷりと浸かることができそうな長篇小説だ。
― Wikipedia 張作霖 より ―
張 作霖(ちょう さくりん, Zhang Zuolin)は中華民国初期の軍閥政治家で、北洋軍閥の流れを汲む奉天派の総帥。満州の統治者であり張学良・張学銘・張学思の父。字は雨亭。
遼東半島の付け根に位置する海城県で生まれる。生家はあまり豊かではない上に早くに父と死別、継父とは気が合わず、家を飛び出したと言われている。その後吉林省に渡り、馬賊に身を投じた。当時の東三省は警察力が弱く、非合法組織が数多く存在した。張はその中でたちまち頭目となり、朝鮮人参や、アヘンの密売で利益を得ていたと考えられる。彼の仲間には後に満州国の国務総理を務めた張景恵などがいた。
1904年に日露戦争が勃発し、東三省は戦場となった。張はロシア側のスパイとして活動し、日本軍に捕縛されたが、張に見所を認めた陸軍参謀次長・児玉源太郎の計らいで処刑を免れた。この時、児玉の指示を受けて張の助命を伝令したのが、後に首相として張と大きく関わることとなる田中義一(当時は少佐)である。その後は日本側のスパイとしてロシアの駐屯地に浸透し、多くの情報を伝えた。
日露戦争後の1905年、東三省の統治体制を引き締める為に八旗兵の出身である趙爾巽が同地に派遣された。彼は行政手腕を以て知られ、財政収入の確保に奔走するとともに、地域の治安向上にも努め、馬賊に対しては帰順すれば軍隊に任用する旨を頭目たちに伝えた。張はこうした状況の変化にいち早く対応し、清朝に帰順して2千程度の規模を持つ軍の部隊長となった。この帰順は形式的なものであり、馬賊として広く知られていた張の下には更に多くの馬賊が集まり、隠然たる勢力を形成していった。
この時期の東三省は、中国各地からの漢族の大量移住とロシア・日本による介入のため急速に開発が進んでいた。……
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