【読】浅田次郎 「マンチュリアン・リポート」 を読む
浅田次郎の小説を読むのは、これが二作目。
『終わらざる夏』 もそれなりに面白かったが、この小説もなかなかのもの。
楽しめた。浅田次郎 『マンチュリアン・リポート』
講談社 2010/9/17発行
303ページ 1500円(税別)
『終わらざる夏』(上下二巻)は、敗戦まぢかの千島列島 占守島が主な舞台だったが、こちらは「満州」が舞台。
時は、張作霖爆殺の翌年、昭和4年(1929年)だ。
なぜ 『マンチュリアン・リポート』 などと気取ったタイトルなのか、不思議なきもちで読んでいたが、後半に、タイトルの謎を明かす会話が綴られていて、はたと膝を打った。
― 以下 引用 (本書P.192-193) ―
「そりゃああなた、報告書じゃなくて上奏文でしょうに」
「いえ、儀礼的な言辞は一切無用と命じられておりますので」
「しかし、報告書じゃいくら何だって畏れ多い――あんた、軍人やろ。満州報告書なんぞと新聞の特派員のようなこと言うて、よう口が腐らへんな」
(中略)
「せめてモダンな名ァを付けたらどうや。英語でいうなら、マンチュリアン・リポートやね」
― 引用 ここまで ―
あまり書くと、まだ読んでいない人へ「ネタバレ」になるので、これ以上は書かない。
各章の扉に印刷されている章題が凝っている。
すなわち、「満洲報告書 第一信」は楷書体(?)で、その上に英語で「A Manturian Report No.1」とあり、これが第七信まで。
報告書の合間に、「鋼鉄の独白 1」と、こちらは明朝体。その上に英語で「A Monologue of Iron No.1」とある。こちらは、No.6まで。
(書体に詳しくないので、ちがっていたらお許しを願うが、要は書体を変えるという芸の細かさを言いたい)
「鋼鉄の独白」とは何ぞや。それも、ここには詳しく書かないが、意表をつく発想で、この作品に厚みをもたせている。
浅田次郎氏の他の著作を知らないが、小説の構成に凝る作家のように思える。
構成に凝りすぎると小説としての面白さをそぐことになりがちだが、ここではみごとに成功していると思う。
それはともかく、有名な「張作霖爆殺」(当時は「満洲某重大事件」と呼ばれていた)を、このようにユニークな視点で小説に仕立てたあげたことに、驚き、感心した。
私には、ひさしぶりのヒットだった。
この作家の他の作品も読んでみたいきもちになってくるが、読みたい本が山ほどあるので、買わずにいよう。……そう言いながら、古本屋でつい買ってしまいそうな予感がして、自信はない。
例えば 『蒼穹の昴』、『中原の虹』 といったタイトルに食指がうごく。
― オンライン書店 e-honサイトより ―
『蒼穹の昴』 全4巻セット
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000008248015&Action_id=121&Sza_id=A0
『中原の虹』 第1巻
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032477428&Action_id=121&Sza_id=B0
……市立図書館にあったので(貸出中ばかりだったが地区館の一部に数冊)、ネットで「予約ボタン」をプチっとやってしまった。便利だなあ。
とりあえず、『中原の虹』(全4巻中、1・2の二巻、単行本)を予約。週末には受け取れるだろう。
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