【読】「昭和二十年夏、子供たちが見た日本」
梯久美子(かけはし・くみこ)というノンフィクション作家がいる。
ちょうど今、東京新聞の夕刊で、「百年の手紙――20世紀の日本を生きた人びと」 という連載をしている。
(2011年7月25日から連載中)
2011/8/5(金) 東京新聞 夕刊 6面
この梯さんの新刊を読んだ。
『昭和二十年夏、子供たちが見た日本』
角川書店 2011/7/10発行
314ページ 1700円(税込)
昭和6年(1931年)から11年(1941年)に生まれ、敗戦のときにはまだ子どもだった、10人の著名人にインタビューしたものだ。
この中には、先日亡くなった児玉清さんもいる。
― 本書の帯より ―
<10人の戦争、そして10人の戦後。
疎開先の村で杉並木に向かって歌いかけた角野栄子。進駐軍のジープに憧れた児玉清。空襲で鉄骨だけになったピアノを見た舘野泉。満洲の芸者置屋で育った辻村寿三郎。大阪大空襲の日、火焔ドームの中を逃げ延びた梁石日。バラの鉢植えを持って疎開し、拾った子雀を育てた福原義春。アッツ島、サイパン島、硫黄島に慰問に行った中村メイコ。トルストイやチェーホフを燃やして暖を取った山田洋次。焼け跡の闇市で予科練帰りの青年が殺されるのを見た倉本聡。ピョンヤンからソウルへ、闇のトラックで38度線を越えた五木寛之。>
それぞれに、たいへん興味ぶかい戦争体験を語っている。
角野栄子さんは、『魔女の宅急便』シリーズで知られる作家。
昭和20年8月15日、小学校五年生だった彼女は、千葉県の疎開先で荷車の下から空を見上げていた。
舘野泉さんは、ピアニスト。
父はチェリスト、母はピアニストの音楽一家に生まれ、東京で空襲にあっている。
辻村寿三郎さんは、著名な人形作家。
昭和8年に旧満洲で生まれ、昭和19年に広島に引き揚げている。
原爆が投下される前に広島県の三次に移転したため、被爆をまぬがれたが、広島市で友だちだった「みちゃん」という女の子を探しに、ひとりで広島市を訪ねた。
みっちゃんと、お兄ちゃんに会うことができた。
みっちゃんは死んだ猫を抱いていた。
二人は、一年ぐらいで死んでしまった。
寿三郎さんは、30歳頃に、この兄妹をモデルにした人形を作っている。
梁石日(ヤン・ソギル)さんは、『血と骨』などの作品で知られる作家。
在日朝鮮人二世として大阪で生まれ、戦時中は地方に疎開していた。
福原義春さんは、資生堂の社長、会長を経て、現在は名誉会長。
学童疎開を経験。
あとは、よく知られた人たちだ。
なかでも、倉本聡さんの学童疎開先での体験が強烈だ。
子どもたちは空腹のあまり、絵の具を食べたという。
ヘビ、カエル、トンボ、セミ、バッタまで。
その後、昭和20年4月に、一家で父親の故郷 岡山に疎開。
蜘蛛の巣だらけ、カビだらけ、虫の死骸だらけの廃屋にたどり着いて、そこに暮らした。
インタビュアーの梯さんは、この話を聞いて、ドラマ『北の国から』第一回のタイトル「廃屋」を思いだしたという。
著者の梯さんは、あとがきでこう言っている。
<今年(平成23年)、未曾有の震災が日本を襲った。映像や写真で被災地の子供たちの姿を目にするたびに、かれらの目にいま映っているものが、どのようなかたちで、その心と体に刻みこまれていくのだろうかと考える。>
<きっと子供たちは忘れないだろう。分析したり、言葉で表現したりすることがいまはできなくても、目にした光景は、心の深いところに焼きついて、消えないに違いない。>
<そんなことを考えたのは、去年から今年にかけて、本書に登場する10人にインタビューしたからだ。いずれも戦争の時代を子供として生きた人たちで、太平洋戦争が始まったときの年齢は、5歳から10歳である。>
<戦争について書かれた記録のなかで、子供はつねに脇役である。……しかしかれらは、戦争と言う日常のなかにあって、「見る」という行為を全身で行っていた。>
<10人の方たちの話を聞くと、大人たちが思っているよりもずっと鋭く、そしてこまやかに、子供たちは世の中を見ていたことがわかる。子供とは、時代が下ったとき、思いがけない歴史の証言者となる存在なのである。>
この人の、他の著作も読んでみたいと思う。
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