【読】面白半分(続々)
コメントでリクエスト(?)をいただいたので、これも書いておこうかなぁ。
佐藤嘉尚著
『「面白半分」の作家たち―70年代元祖サブカル雑誌の日々』 (集英社新書)
著者の佐藤嘉尚さんが、「面白半分」創刊第二号の「随舌」(注)に登場してもらうことになった五木寛之さんと、初めて会ったときの話もおもしろい。
(注) 「随舌」とは、「この雑誌を象徴するような企画」。初代編集長・吉行淳之介の発案で、「忙しい人に原稿を頼むのは大変だが、一時間ぐらい話してもらったのをリライトする」というもの。「随筆」ならぬ「随舌」というネーミングも吉行淳之介。
五木さんとの待ち合わせ場所として指定されたのは、帝国ホテル一階のコーヒーハウス。
約束の時間より20分早く帝国ホテルに到着した佐藤さんだったが、三十分が過ぎ、一時間近くたっても五木さんが現われない。
ウェイトレスに聞くと、「コーヒーハウスはこの奥でございます」という返答。
―以下、本書より(P.112-)―
<まったく私のドジだった。田舎者のせいで、「帝国ホテル」などといわれたとたんに上気してしまい、冷静さを失うのである。普通なら着いたときに場所を確認してしかるべきなのだが、そんなことを聞くとバカにされるのではないかなどと思い、いかにも物慣れたようなふりをして、一階のコーヒーハウスってったらここしかないべえよ、と決めつけてしまったのだ。……>
<私はあわてふためいて本当のコーヒーハウスに行った。もう怒って帰っただろうとほとんどあきらめモードだったが、五木寛之は隅っこの席でグレーのとっくりセーターを着て、ひとりポツンと座って待ってくれていた。本を読んでいたらしい。/私はひたすら謝った。五木は心の中はともかく私のカン違いを了解し、取材に入った。>
このときの取材内容もおもしろいものだが、ここでは省略する。
ちなみに、佐藤さんは秋田県生まれ。
この人の文章の語り口は、気取りも衒いもなく、私は好きだ。
五木寛之さんは、「面白半分」の四代目編集長(1973年7月号~12月号)をつとめた。
このとき、五木さんの発案で、「日本腰巻文学大賞」が創設された。
いかにも五木さんらしい発想で、佐藤さんも「意表を突かれる思いがした」と書いている。
この本には、そのときの「<日本腰巻文学大賞>設定の辞」が転載されている(P.115-)。
しつに軽妙洒脱な文章で、おもしろい。
五木さんが書いたか、彼の話を佐藤さんが口述筆記したものだという。
長いのでほんのサワリだけ紹介する。
念のために断っておくが、「腰巻」とは本の「帯」のことだ。
<日本腰巻文学大賞> 設定の辞
世界に冠たる出版文化王国の住民として、日に一冊の本を手に取らざる日なく、日に一枚の出版広告を目にせざることはなしといえども、尚一冊の本を読破味読するには、吾人のエネルギー余りに少なく、又、凡百の書評必ずしも正鵠を射るとはいい難し。 …(中略)…
ここに能く新刊の趣を伝え、かつまた独自の美をなす腰巻の内より、毎月三篇を選び、これを今月のベストスリーとして誌面に掲げ、更にその内より最優秀作品一篇を選びて年度を上半期、下半期に分け当文学賞を授賞するものなり。 …(後略)…>
六ヵ月後の1973年12月号で、「第一回日本腰巻文学大賞」が発表され、『酒飲みの自己弁護』(新潮社 著者=山口瞳 担当兼コピー制作=池田雅延)が大賞を受賞した。
第2回 大賞受賞者=文藝春秋・箱根裕泰、受賞作品=田辺聖子著『女の長風呂』
第3回 大賞受賞者=三笠書房・青柳茂男、受賞作品=田中小実昌著『不純異性交友録』
第4回 大賞受賞者2名=学芸書林・桑原茂夫、受賞作品=種村季弘著『詐欺師の楽園』
および、誠文堂新光社・須永和親、土屋耕一著『土屋耕一のガラクタ箱』
第5回 大賞受賞者=講談社・古屋信吾、受賞作品=和田誠著『日曜日は歌謡日』
第6回 大賞受賞者=講談社・垣内智夫、受賞作品=シルヴァスタイン著『ぼくを探しに』
第7回 大賞受賞者=新潮社・加藤和代、受賞作品=星新一著『安全のカード』
第8回 大賞受賞者=冬樹社・藤田基夫、受賞作品=川本三郎著『シネマ裏通り』
(以上、本書巻末 「雑誌『面白半分』の歩み」 より)
こうして並べてみると、受賞した本の実物を「腰巻」付きでながめてみたい気持ちになる。
(おしまい)
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コメント
さっそくありがとうございます!!
五木さんでしたか! 大賞設定の辞というのがまた、言い得て妙なりですね。ほんとに、実物を見てみたいです。
投稿: ギー | 2011年10月20日 (木) 02時11分
>ギー さん
いいえ。どういたしまして。
40年も前の雑誌、私の20代の頃をしばし思いだして感慨ぶかいものがあります。
投稿: やまおじさん | 2011年10月20日 (木) 08時40分