« 【楽】MOTEL北海道ライブ・ツアー | トップページ | 【読】ひさしぶり、船戸与一 »

2011年11月28日 (月)

【読】読了、「私の名はナルヴァルック」

廣川まさき さんという女性が書いた本を、さきほど読みおえた。
『私の名はナルヴァルック』 という。
先に読んだ 『ウーマンアローン』 に続く、二冊目。

Hirokawa_masaki_2 

エスキモー (著者があえてこの呼び名を使う、その理由もしっかりと書かれていて好感が持てた) の生活に溶け込んで、家族の一員のような日々を送った著者の感動が伝わってくる。
読んでいて、随所で胸が熱くなった。

書名にある 「ナルヴァルック」 とは、廣川さんがエスキモーの村に着いてすぐに、ディリアというおばあちゃんからもらった名前だ。
ディリア(引用文中では「アカ」)が自分の母親の名前をくれた、そのいきさつは感動的だ。


<アカは、ウルで器用に肉をそぐように切ると、その肉を薄黄色の透明な油につけて、「食べなさい」と、私の口もとに差し出した。
 「きた!」と、私はとっさに思った。いよいよ、乗り越えなければならない試練の瞬間だ。
(中略)
 植村直已も星野道夫も、著書の中で、食してみればなかなかおいしいといったことを書いているが、口に入れる前に、その臭さに鼻が曲がる。
 このひどく臭いものを口に入れる前に、その臭さに鼻が曲がる。>


著者の廣川さんが勧められた食べ物は、ゆでたアザラシの肉。
肉につけた油は、シーオイルと呼ばれるアラザシの皮下脂肪を常温で溶かしたもので、強烈な臭いがする。
著者は覚悟を決めて口に入れ、咀嚼すると、「コクのあるうまさが口に広がる」感じだったという。

<私は、目を丸くしながら肉を噛みほぐした。その顔を見て、アカは、こう言ったのだった。
 「ナルヴァルック……」
 私がきょとんとしていると、アカは微笑みながら続けた。
 「あなたのエスキモーの名前よ。あなたは、今日からエスキモー」>

 (本書 P.31-32 第一章 アカとアパ)


著者が滞在した村の名は、ティキヤック。英語ではポイントホープ村という。
今でも伝統的なやり方で捕鯨を続けている、ちいさな村だ。
その村で、廣川さんはエスキモーの人たちと生活を共にし、伝統的な捕鯨や村の行事を、身をもって体験する。
エスキモー名をくれたおばあちゃんをアカと呼び、その夫・ハワードをアパと呼んで、実の娘のように可愛がってもらう。
(アカ、アパは、現地のイヌピアック語でおばあちゃん、おじいちゃんを意味する)

私は、写真家の故・星野道夫さんの著作などで、この村のことを知っていた。
著者と星野さんとの縁ということでは、星野さんとも親交のあったジニー・ウッドとの出会いや、星野さんも世話になったアラスカ在住の西山周子さんとの交流、なども書かれている。
冒頭から、私にはとても嬉しい本だった。

1972年生まれの著者が村を訪れたのは2007年というから、35歳の頃だろう。
「居候」のような形で、村の一家と寝起きを共にし、同じものを食べ、喜びや悲しみを共有する。
この体験記は、さわやかで感動的だ。

「チャリオット計画」(1958年、アラスカ・オゴトルック谷の河口岸壁を水爆で爆破して人工の巨大な港を建設する計画)、1992年に明らかになったネバダ核実験場放射能汚染物質の廃棄、石油採掘に伴う巨大なパイプライン建設、など、現在のアラスカが抱える問題や、捕鯨問題に対しても、著者はしっかりした考えを持っている。
そこに好感を覚えた。

また、私など、ただ漠然と「良くないこと」と思いこんでいた「地球温暖化」と呼ばれる現象についても、鋭い考えを述べていて、感心した。

廣川まさきさんという人を知ったのは、Twitterがきっかけだった。
私にとって、いい出会いだったと思う。


廣川まさき 著 『私の名はナルヴァルック』
 集英社 2010年 304ページ 1500円(税別)

廣川まさきさんのサイト
  ノンフィクションライター廣川まさき・ウエブホームページ
  http://web.hirokawamasaki.com/

Webナショジオ | ナショナル ジオグラフィック(NATIONAL GEOGRAPHIC) 日本版公式サイト
  http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/web/
 (廣川まさきさんの連載あり)

|

« 【楽】MOTEL北海道ライブ・ツアー | トップページ | 【読】ひさしぶり、船戸与一 »

【読】読書日誌」カテゴリの記事

こんな本を読んだ」カテゴリの記事

星野道夫」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
同じ町、ポイントホープで廣川さんより前に訪れていた日本人がいるのですが、その人が今ギーで漁の様子を撮った写真を掛けています。
鯨獲りの季節になると、帰郷でもするかのように毎年その町で暮らしては、また日本に戻ってきます。
淡々とそれを繰り返しているおじさんです。

投稿: ギー三輪 | 2012年1月 8日 (日) 12時22分

>ギー三輪さん
おお、すごい人ですね。
http://giee.jp/photo/album/69305
http://homepage1.nifty.com/arctic/

高沢進吾さん…見に行きたいですねぇ。
なかなか夜は出られなくて。
でも、近いうちにぜひ。

投稿: やまおじさん | 2012年1月 8日 (日) 13時55分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【読】読了、「私の名はナルヴァルック」:

« 【楽】MOTEL北海道ライブ・ツアー | トップページ | 【読】ひさしぶり、船戸与一 »