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2012年6月16日 (土)

【読】上原善広 『私家版差別語辞典』

市内の図書館にあることを知り、借りてきた本。
先日、おなじ著者の 『日本の路地を旅する』 (文藝春秋・2009年) を読んだばかりだったので、興味を持ったのだ。

たいへん面白く、タメになる本だった。

上原善広 『私家版 差別語辞典』
 新潮選書 2011年5月発行
 234ページ 1200円(税別)

「私家版」名づけられているところがミソ。
著者自身によるルポルタージュも多く、観念的な「辞典」とはちがって読ませる内容だ。

<そもそも差別とは何か? なぜ差別する言葉は生まれたのか?……
 被差別部落に根ざす隠語、あるいは心身障害、職業、人種にまつわる言葉をめぐり、語源や歴史的背景、どこでどのように使われてきたのかなどを具体的に解説。また、抗議と自主規制により「消された言語」となってしまった現状も抉る。〝路地〟に出自を持ち、「差別の現場」を精力的に取材し続け深く関わりを持ってきた著者だからこそ書けた、「言葉」たちのすべて。>  ― 本書カバーより ―


「路地」「心身障害者」「職業」「その他」の四つのパートに分けられ、74の言葉がとりあげられている。
著者の豊富な体験と、幅広い調査・知識に裏づけられていて、しっかりした内容。
手もとに置いておきたい一冊だ。
買っておこうかな、と思う。

路地
路地、部落、新平民、特殊部落、同和、士農工商、穢多、非人、ヨツ、乞食、河原乞食、サンカ、願人坊主、ぐれ宿、不可触民、ヤクザ、ハク、浅草弾左衛門、車善七、革坊、長吏、カワタ、藤内、下町、ラク町、鉢屋、茶筅、犬殺し、勘太郎、京太郎、木地師、宮番、猿回し、青屋、番太、家船、陰陽師、谷戸

心身障害者
障害と障碍、五体満足、おし、つんぼ、めくら、ビッコ、かたわ、片手落ち、気違い、らい病(ハンセン病)、文盲、どもり、小人

職業
職安、土方・沖中士、浮浪者、隠亡、屠殺、くず屋

その他
学歴、片親、あいのこ(ハーフ)、育ちが悪い、丙午、ブス、土人、外人、支那、毛唐、トルコ風呂、ジブシー、カゴ、チョンコ、インディアン、オロッコ、ギリヤーク


目次を書き写していて(漢字変換入力して)気づいた。
著者も書いているように、「差別語」とされている単語は、日本語変換辞書に登録されていないのだ。
考えてみれば不思議なことだ。

一例をあげると、「穢多(えた)」「非人(ひにん)」「隠亡(おんぼう)」「毛唐(けとう)」などは古くから使われている言葉なのに、パソコンの日本語変換の世界でも「自主規制」されているのだろう。


著者 上原善広氏については、Wikipediaに詳しい記載がある。
Wikipediaの記述は眉に唾をつけて読むようにしているが、なかなか興味ぶかいことが書いてあった。

 Wikipedia 上原善広
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E5%8E%9F%E5%96%84%E5%BA%83

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コメント

 オロッコやギリヤークも、そして学歴も差別語なのですね。興味深いです。著者の経歴もドラマチックですね。「経歴」も差別語になりうるかもしれませんね。

投稿: みやこ | 2012年6月20日 (水) 07時05分

>みやこ さん
少数民族の呼び名には、どうしても差別のイメージがこびりついているのでしょうね。実際、差別的な意味合いをこめて使われてきたようです。
以下、本書によると――
「オロッコ」:もともとアイヌが「ウイルタ」族をそう呼んだもの。戦前までは彼らを侮辱した言葉として使われていた。
「ギリヤーク」:自らは「ニブフ」と呼んでいる。

それはそれとして、差別語なるものは差別意識からきているので、言葉だけを言い替えたりタブー視するのはおかしい、というのが上原さんの姿勢で、私も同感です。

「職安」を「ハローワーク」(私もそう呼ぶようになってしまいましたが)と言い替えたりするのには、笑ってしまいますね。

投稿: やまおじさん | 2012年6月20日 (水) 07時53分

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