【読】1,000ページ近い大著に挑戦
本文829ページ、巻末の注121ページ、あとがきと人名索引16ページ、合計966ページの大著。
ムズカシイ本だ。
私の理解に余る記述が多いのだが、がんばって読んでいる。
途中でやめようかと何度思ったことか。
こうなると、「意地」である。
本文の半分位(第11章の途中)まで読んだところだ。
内容は、戦後思想史、社会運動史、といえばいいのか。
面白い。
小熊英二 『<民主>と<愛国> 戦後日本のナショナリズムと公共性』
新曜社 2002年10月発行 6300円(税別)
とても自腹で買うような本ではないので、近くの図書館から借りてきた。
タイトルは、著者の問題意識をあらわしているのだろうが、私は、戦後思想・社会運動の学習のつもりで読んでいる。
第10章で竹内好を、第14章で吉本隆明を、それぞれ一章をついやして論じているのが、興味ぶかい。
竹内好という人のことを、私はほとんど知らなかったが(イメージは持っていた)、なかなかスケールの大きな魅力的な人だったようだ。
戦時中の文学者の戦争協力(積極的な戦争賛美から消極的な協力まで)についても、私は思いちがいをしていたようだ。
永井荷風が、1910年の大逆事件の後、政治と縁を絶ち、戦争協力に手を染めないで済んだ背景に、彼が豊富な資産を有していたことがあったと、いうことなどは、「目から鱗」だった。
なるほど、と感心することが多いが、巻末注の次の記述などもその一つ。
<……ただ強いていえば政治史研究においては、マッカーサーや吉田(茂:引用者注)といったアクターを、合理的存在として把握しすぎている傾向が感じられた。たとえばマッカーサーが、どのような国際情勢認識にもとづいて、何年ごろから再軍備論に転換したのかが、一つの焦点になっている。しかし人間は、状況認識にもとづいて政治行動を選択するという合理的存在では必ずしもなく、自分の主張や面子を正当化するために状況認識のほうを構築してしまう存在でもある。筆者はこうした社会学的な人間観にもとづき、護憲論と再軍備論は当初からマッカーサーなどの内部でアンビバレントな状態で共存していたものであり、本国との相克関係や面子などから、その時点ごとに自分に好都合な状況認識を構築していたという観点をとった。> (本書 p.894)
なお、気になる本書のカヴァー写真は、「1947年12月7日の行幸」(カール・マイダンス撮影)。
以下、Amazonサイトからコピー、加筆。
どういう本なのか、イメージがわくと思う。
今回は、太平洋戦争に敗れた日本人が、戦後いかに振舞い思想したかを、占領期から70年代の「ベ平連」までたどったものです。
戦争体験・戦死者の記憶の生ま生ましい時代から、日本人が「民主主義」「平和」「民族」「国家」などの概念をめぐってどのように思想し行動してきたか、そのねじれと変動の過程があざやかに描かれます。 登場するのは、丸山真男、大塚久雄から吉本隆明、竹内好、三島由紀夫、大江健三郎、江藤淳、さらに鶴見俊輔、小田実まで膨大な数にのぼります。現在、憲法改正、自衛隊の海外派兵、歴史教科書などの議論がさかんですが、まず本書を読んでからにしていただきたいものです。読後、ダワー『敗北を抱きしめて』をしのぐ感銘を覚えられこと間違いありません。
◆目次◆
序章
第一部
第1章 モラルの焦土――戦争と社会状況
セクショナリズムと無責任/軍需工場の実態/組織生活と統制経済/知識人たち/学徒兵の経験/「戦後」の始まり
第2章 総力戦と民主主義――丸山眞男・大塚久雄
「愛国」としての「民主主義/総動員の思想/「国民主義」の思想/「超国家主義」と「国民主義」/「近代的人間類型」の創出/「大衆」への嫌悪/屈辱の記憶
第3章 忠誠と反逆――敗戦直後の天皇論
「戦争責任」の追及/ある少年兵の天皇観/天皇退位論の台頭/共産党の「愛国」/「主体性」と天皇制/「武士道」と「天皇の解放」/天皇退位と憲法/退位論の終息
第4章 憲法愛国主義――第九条とナショナリズム
ナショナリズムとしての「平和」/歓迎された第9条/順応としての平和主義/共産党の反対論/「国際貢献」の問題
第5章 左翼の「民族」、保守の「個人」――共産党・保守系知識人
「悔恨」と共産党/共産党の愛国論/戦争と「リベラリスト」/オールド・リベラリストたち/「個人」を掲げる保守/「世代」の相違
第6章 「民族」と「市民」――「政治と文学」論争
「個人主義」の主張/戦争体験と「エゴイズム」/「近代」の再評価/共産党の「近代主義」批判/小林秀雄と福田恒存「市民」と「難民」
第二部
第7章 貧しさと「単一民族」―一九五〇年代のナショナリズム
経済格差とナショナリズム/「アジア」の再評価/反米ナショナリズム/共産党の民族主義/一九五五年の転換/「私」の変容/「愛する祖国」の意味
第8章 国民的歴史運動――石母田正・井上靖・網野善彦ほか
孤立からの脱出/戦後歴史学の出発/啓蒙から「民族」へ/民族主義の高潮/国民的歴史学運動/運動の終焉
第9章 戦後教育と「民族」――教育学者・日教組
戦後教育の出発/戦後左派の「新教育」批判/アジアへの視点/共通語普及と民族主義/「愛国心」の連続/停滞の訪れ
第10章 「血ぬられた民族主義」の記憶――竹内 好
「政治と文学」の関係/抵抗としての「十二月八日」/戦場の悪夢/二つの「近代」/「国民文学」の運命
第11章 「自主独立」と「非武装中立」――講和問題から55年体制まで
一九五〇年の転換/アメリカの圧力/ナショナリズムとしての非武装中立/アジアへの注目/国連加盟と賠償問題/「五五年体制」の確立
第12章 六〇年安保闘争――「戦後」の分岐点
桎梏としての「サンフランシスコ体制」/五月十九日の強行採決/戦争の記憶と「愛国」/新しい社会運動/「市民」の登場/「無私」の運動/闘争の終焉
第三部
第13章 大衆社会とナショナリズム――一九六〇年代と全共闘
高度経済成長と「大衆ナショナリズム」/戦争体験の風化/「平和と民主主義」への批判/新左翼の「民族主義」批判/全共闘運動の台頭/ベトナム反戦と加害
第14章 「公」の解体――吉本隆明
「戦中派」の心情/超越者と「家族」/「神」への憎悪/戦争責任の追及/「捩じれの構造」と「大衆」/安保闘争と戦死者/国家に抗する「家族」/「戦死」からの離脱
第15章 「屍臭」への憧憬――江藤 淳
「死」の世代/没落中産階級の少年/「死」と「生活者」/「屍臭」を放つ六〇年安保/アメリカでの「明治」発見/幻想の死者たち
第16章 死者の越境――鶴見俊輔・小田 実
慰安所員としての戦争体験/「根底」への志向/「あたらしい組織論」の発見/「難死」の思想/不定形の運動/他
結論
参考サイト
松岡正剛の千夜千冊『単一民族神話の起源』小熊英二
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0774.html
『増補版 敗北を抱きしめて』 (上・下) ジョン・ダワー
岩波書店 2004年刊
一九四五年八月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士がそこに見出したのは、驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった…新たに増補された多数の図版と本文があいまって、占領下の複雑な可能性に満ちた空間をヴィジュアルに蘇らせる新版。 (Amazon)
【2012/10/29追記】
ようやく読了。タメになる本だった。
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