【読】再読「畏るべき昭和天皇」
昼間、寒風のなか、自転車で近くの図書館と家電屋(ヤマダ電機)まで。
図書館で書棚をながめていたら、数年前に読み、手放してしまった本があった。
ちょうど今、昭和天皇の事績について読んでいるところなので、棚から出してパラパラめくってみた。
おそろしいことに、一度読んだ内容をすっかり忘れている。
あらためて興味をひかれたので、借りてきて読みはじめた。
松本健一 『畏るべき昭和天皇』
毎日新聞社 2007年
315ページ 1,600円(税別)
私が持っていたのも、今回借りてきたのも単行本だが、文庫版が新潮文庫からでていた。
松本健一 『畏るべき昭和天皇』
新潮文庫 2010年
422ページ 660円(税込)
一時中断した、読みかけの本。
こちらも興味ぶかい本だ。
『天皇百話 下の巻』
鶴見俊輔・中川六平 編
ちくま文庫 1989年4月
830ページ 1,200円(税別)
この中で、渡辺清という人の「私は、これでアナタにはもうなんの借りもありません」という文章が、胸を打った。
(上掲書P.266-274)
原文は、『砕かれた神―ある復員兵の手記』(朝日新聞社、1983年刊)。
渡辺清 1925年(大正14)―1981年(昭和56)
<静岡県の農家に生まれる。1941年(昭和16)高等小学校卒業、そのまま16歳で海軍志願兵となる。海軍が不沈戦艦として世界に誇った「武蔵」乗員になり、44年10月末、レイテ沖海戦に参加、「武蔵」撃沈のさい遭難するが、一命をとりとめて45年復員。「皇国少年」として十五年戦争を生きて来た渡辺にとって、戦後は「いまだに未決であるあなたの戦争責任の問題です。考えてみますと、かつて戦場でいちどはいのちを賭けたあなたにたいし、このようなことを申し上げることは、私にとってたいへん気の重いことです。しかし私にとってあなたの存在をぬきにして戦争問題を考えることができない以上、どうしてもあなたの戦争責任を不問に付すわけにはいきません」(『私の天皇観』辺境社、昭和56年刊)。そのものだった。「私は、これでアナタにはもうなんの借りもありません」で締めくくられている。この「昭和21年4月20日」の日記は『砕かれた神―ある復員兵の手記』(朝日新聞社、昭和58年刊)より。> ― 上掲書『天皇百話 下の巻』 P.266) ―
この日記のなかで、彼は、昭和天皇に宛てた手紙の内容を記述している。
<私の海軍生活は四年三カ月と二十九日ですが、そのあいだ私は軍人勅諭の精神を体し、忠実に兵士の本文を全うしてきました。戦場でもアナタのために一心に戦ってきたつもりです。それだけに降伏後のアナタには絶望しました。アナタの何もかもが信じられなくなりました。そこでアナタの兵士だったこれまでのつながりを断ち切るために、服役中アナタから受けた金品をお返ししたいと思います。>
手紙は、4,282円の為替を同封して、実際に投函された。
4,282円は、彼が「アナタ」から支給された俸給、物品を計算した返済額合計である。
その明細が細大漏らさず記載されていて、迫力がある。
上官から「靴下一足、ボタン一個にいたるまで天皇陛下からお借りしたものだから大事にせい」と教育され、信じきって軍隊生活を送ってきただけに、その細かさにはすさまじいものがある。
入隊から除隊までのあいだに受け取ってきた俸給・手当はもちろんのこと、支給された被服のすべて(それこそ、靴下一足まで)、「御下賜品」の煙草三箱と日本酒二合瓶一本に至るまで、金額換算して撤去している。
まさに、執念である。
おそらく、彼の手紙は昭和天皇のもとには届いていないだろう。
が、どうしても「借り」を返さなければ気持ちのやり場のなかった心情が、痛いほど伝わってくる。
彼の手紙の最後は、次のように締めくくられているのだから。
――「私は、これでアナタにはもうなんの借りもありません。」
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