【読】名誉を重んじること
今日の午前中は、所属する団体の定例会議。
午後、小平まで出向き、別の団体の会合に出席した。
小平の会合が終わったとき、一人の会員仲間の方が新聞切り抜きをくださった。
朝日新聞8月6日夕刊文化欄の、池澤夏樹さんの寄稿文だった。
私が池澤夏樹ファンと知って、切り抜いてきてくださったのだった。
ありがたいことである。
思うところあって、朝日新聞の購読をやめ、東京新聞に替えてから、何年もたつ。
こういう記事をみると、朝日も悪くないと思うが、購読する気はない。
朝日新聞 2013/8/6(火) 夕刊 文化面(3面)
終わりと始まり 池澤夏樹
― 名誉ある敗北 洗い流せぬ恥と共に ―
記事は、朝日新聞のデジタル・サイトで読める(全文を読むのは有料だが)。
→朝日新聞デジタル:(終わりと始まり)名誉ある敗北 池澤夏樹 - カルチャー
http://www.asahi.com/culture/articles/TKY201308060296.html
さすが、池澤さん。
私が常々ばくぜんと感じ、思っていたことを、ズバリ書いてくれている。
<八月十五日が巡ってくる。
一般には「終戦記念日」だが、公式の呼びかたは「戦没者を追悼し平和を祈念する日」だそうだ。(中略)
国民の大半にとってあの日は実感として戦争が終わった日だっただろう。形勢不利になってからも戦争は指導者の隠蔽と糊塗のうちに何年も続いた。爆撃の中を逃げ回った日々がようやく終わった、その安堵感は想像できる。>
<安堵感と共に敗北感もあったのではないか。スポーツでは正々堂々と戦えばいい、勝ち負けは二の次などと言うが、それは欺瞞。誰だって勝ちタイに決まっている。
負けたことの悔しさ、恥辱の感情を日本人はどう始末したのだろう。…(後略)>
「恥を知れ」という言葉を、ちかごろ聞かないようになった。
あの戦争は、もちろん勝算のうすい無謀な戦(いくさ)だった。
誰も本気で勝てるとは思っていなかっただろう、と私は思う。
原子爆弾を二発も落とされて、とうとう国の指導者たちもギブアップした。
(あれは米国による壮大な「実験」ともいえる、非戦闘員の無差別殺人)
今になって思えば、もっとマシなギブアップの仕方もあったはず。
先の見えない戦(いくさ)に耐えてきた大半の人びとは、ほっとしたことだろう。
と同時に、負けた悔しさと、この後日本はどうなるのだろう、という不安を感じたのではないか。
私はそのように理解している。
池澤さんはこの文章の後半で、興味深い本を紹介している。
まずは、その前段。
<戦争責任を問うことは大事である。どこで誰がどう間違ってあんな結果になったのか、そこに至る判断の一つ一つが検証されなければならない。…(後略)
その一方、恥辱の思いをどう扱って我々は今に至ったのか、それを考えることも必要ではないか。>
この後、池澤さんがとりあげているのは、白井聡 『永続敗戦論』 (太田出版)という本。
<白井聡は、日本人は「敗戦」をなかったことにして「終戦」だけで歴史を作ってきたと言う。強いアメリカにはひたすら服従、弱い中国と韓国・北朝鮮に対しては強気で押し切る。その姿勢を経済力が支えてきた。彼が言う「永続敗戦」は戦後の歴史をうまく説明している。経済力の支えを失った今、我々はやっと事態を直視できるようになった。>
以上、さしつかえない範囲で、池澤さんの文章を引用・紹介した。
福島第一原発事故(池澤さんは「崩壊」と呼んでいる)についても―― 「東京電力という会社にとって究極の恥であったはずだ。しかし東電はもちろん、一蓮托生でやってきた財界も自民党も恬然として恥じることを知らない」――と言ってのける。
爽快だ。
わが意を得たり、といったところ。
なんだか国をあげて、おかしなことをやろうとしているのが、いまのジャパン。
池澤さんのような「良識=コモンセンス」を、私も失わないようにしたい。
コモンセンスとは、こういうことだ。
<…「保つべき名誉」を我々は回避してしまった。アメリカに負けたのは歴然としている。原爆投下はその象徴だった。だが、中国にだって負けたのだ。あれだけ長い間(十五年戦争という呼びかたがあるほど)戦って、最後には追い出された。>
<罪は検証可能だ。古代日本人は罪を汚れ(けがれ)と見なして禊(みそぎ)によって無にできるとした…。しかし恥は洗い流せない。(後略)>
<名誉を重んじるとはやせ我慢をすることである。
なぜそれができなかったのだろう?>
『永続敗戦論――戦後日本の核心』 白井 聡
太田出版 atプラス叢書04 2013/3/8
― Amazon 紹介文 ―
1945年以来、われわれはずっと「敗戦」状態にある。
「侮辱のなかに生きる」ことを拒絶せよ。
「永続敗戦」それは戦後日本のレジームの核心的本質であり、「敗戦の否認」を意味する。国内およびアジアに対しては敗北を否認することによって「神州不滅」の神話を維持しながら、自らを容認し支えてくれる米国に対しては盲従を続ける。敗戦を否認するがゆえに敗北が際限なく続く――それが「永続敗戦」という概念の指し示す構造である。今日、この構造は明らかな破綻に瀕している。
もう一冊、池澤さんが翻訳した本。
米国の原爆投下に至る実話が描かれている。
『ヒロシマを壊滅させた男 オッペンハイマー』
ピーター・グッドチャイルド 著/池澤夏樹 訳
白水社 新装版 1995年
【追記 2013/9/1】
Web検索でみつけたサイト記事
白井聡『永続敗戦論』書評~池澤夏樹|さぶろうの WORDS OF LOVE
http://ameblo.jp/lovemedo36/entry-11572850479.html
週刊文春2013/7/18号に寄稿されたという池澤夏樹さんの文章が紹介されている。
池澤さんの文章の原文を確認していないが、次の箇所などいかにも池澤さんらしい考え方で、私もおおいに同意する。
<なぜ福島県をボロボロにした東電がああまで居丈高なのか?なぜオスプレイは勝手放題に飛んでいるのか?なぜ自民党が選挙で圧勝するのか?
どれにも明快な答えが見つからない。それはたぶん我々が時代から充分に距離を取っていないからだ。ぼくなど「戦後」を六十数年も生きてきたから、すべての問題は間近すぎて客観視できない。紋切り型の対応しかしていないと自分でも焦っているのだが。
もっとカメラを引いて視野を広くし、見逃していたものを取り込まなければならない。例えば白井聡の『永続敗戦論――戦後日本の核心』を読むとかして。>
池澤さんに「気づき」を与えた、この『永続敗戦論』は、読んでみたいと思う。
さらに、池澤夏樹さんの新刊がでていたことを知った。
『終わりと始まり』 池澤夏樹
朝日新聞出版 2013/7/5発行 1,400円(税別)
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