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2013年8月19日 (月)

【読】The third man factor (サードマン現象)

「サードマン現象」――これは、人間が困難な状況に置かれ、時に命の危険にさらされたときに起きる現象で、その場にいるはずのない “誰か” に助けられる体験を指す。

第三の人(サードマン)という言葉は、T・S・エリオットの英語詩「荒地」で使われたのが、はじまりらしい。
私は原詩を知らないが、今読んでいる本からの孫引き。

 いつもきみのそばを歩いている第三の人は誰だ?
 数えてみると、きみとぼくしかいない
 けれど白い道の先を見ると
 いつもきみのそばを歩くもう一人がいる


  『奇跡の生還へ導く人 ― 極限状況の「サードマン現象」』 伊豆原弓訳・新潮社刊より

昨夜から、この本を読みはじめた。
面白い。

ジョン・ガイガー 著/伊豆原 弓 訳
 『奇跡の生還へ導く人 ― 極限状況の「サードマン現象」』

  新潮社 2010/9/15発行 255ページ 1,800円(税別)
 THE THIRD MAN FACTOR by John Geiger, 2009



Home - The Third Man Factor (英文サイト)
http://thirdmanfactor.igloocommunities.com/

この本は、椎名誠さんの 『ぼくがいま、死について思うこと』 (新潮社、2013年4月刊)で教えてもらった。
海底洞窟、南極大陸、飛行機の操縦席、9・11の世界貿易センタービルなど、さまざまな場面での「サードマン現象」が描かれている。

<それらを神の御業だと言う人もいる。研究者は、孤独、単調な風景、喪失ストレス、低温や低酸素など、外的・内的要因を挙げている。著者は、数多くの体験者の話を聞き、膨大な資料にあたり、その一つ一つをつぶさに検証する。そして結論は、脳科学へと収束していくのだが、それでもなお謎は残る。なぜ<存在>は危機的状況にある人を助け、奇跡の生還へと導くのか――。> (本書 訳者あとがき)

いわゆる「オカルト」的な事象ではなく、私はこのような「サードマン現象」は起こりうると思っている。
ただ、私にはまだ経験がないが……。
訳者あとがきでは、日本人の事例も三つほど紹介されている。

◆1982年 千葉県市川山岳会 松田宏也の、中国ミニヤコンカ遭難時の体験――
パートナーの菅原信を亡くし、一人で奇跡的な生還を果たした。
<両手両足が凍傷にかかった状態で岩場を歩きクレバスを越えた。その間、絶えず幻聴が起きた。(中略)そして、絶壁をおりる方法が見つからず自暴自棄になりかけたときに、その声が聞こえた。/「落ち着け……、落ちつけ……(後略)>
(本書 訳者あとがきより、訳者による引用は、松田宏也 『ミニヤコンカ奇跡の生還』 山と渓谷社、1983年)

◆1992年 ヒマラヤ チョ・オユー単独行での、山野井泰史の体験――
<後ろに気配を感じ、その幻のパートナーが手を貸してくれないことを不思議に思うのだ。/確かに男のクライマーで会話はできないが、意思の疎通は可能なような気がする。今までのソロ・クライミングのときは孤独を紛らわすためにわざと独り言を言ったりしていたが、今回の登攀はまったく話していない。寂しくないのだ。山が私に同伴者を与えてくれているようだ。>
(同上、訳者引用は、山野井泰史 『垂直の記憶――岩と雪の7章』 山と渓谷社、2004年)

◆1992年 グアムへのヨットレースで「たか号」が転覆、27日間漂流した佐野三治の体験――
<仲間がバタバタと亡くなり一人きりで絶望の淵にあったとき、突然、筏ごと百メートル上空に浮き上がり、大音響のベートーベン第九交響曲が聴こえてきたと言う。/幻覚ではなく、本当にああいう状態になったとしか思えないのだ。太平洋のまっ直中で漂う私を、UFOに乗った宇宙人が見つけて、なんとかしてやろうと、持ち上げてくれたのではないだろうか、と。>
(同上、訳者引用は、佐野三治 『たった一人の生還――「たか号」漂流二十七日間の闘い』 新潮文庫、1995年)


第二章 「シャクルトンの天使」 が、私にはことのほか興味ぶかい。
先日読んだ 『エンデュアランス号漂流』 では触れられていない逸話。

シャクルトンら28名の探検隊の乗ったエンデュアランス号は、氷に閉ざされたまま十カ月近く漂流。
やがて船は壊滅、沈没し、彼らは船を脱出して巨大な氷盤に乗り、さらに漂流を続ける。
それから五カ月後、なんとか三艘のボートで氷海から脱出し、エレファント島に上陸。

その島にいても救援隊に発見される見込みのないことが明白だったため、シャクルトン以下6名が、救援を求めて島を脱出し、小さなボートでサウスジョージア島の捕鯨基地を目指す。
残り22名はエレファント島に残り、救援を待つことに。

6名は、ちいさなボートで、「世界で最も荒れる海域」といわれるホーン岬の南の海へ漕ぎ出すという究極の冒険にでた。
その距離、1,100キロメートル!

17日間かけて、6名はサウスジョージア島に命からがら上陸できたものの、そこから先、捕鯨基地のある島の反対側までボートで進むことはできなかった。

最終的に、シャクルトンとワースリー(エンデュアランス号船長)、二等航海士 トム・クリーンの三名が、徒歩で島を横断して、救援を求めることになった。
前人未到の氷河の山越えである。
一本のロープと、大工の手斧一丁だけが、彼らの「装備」だった。

三人が体験したのは、この過酷な山越えの間ずっと、そこにいないはずの何者かの存在を感じ、励まされたということだった。

<シャクルトンは苦労しつつも旅の回想録を書きあげたが、随所に「語れないことがたくさんある」と注意書きをしている。……> (本書 P.45)

<回想録でシャクルトンは、最後にして最悪の苦闘のなか、何か尋常でないものがそばにいる気がしてならなかったとあかしている。>
<あの数日をふり返ってみると、雪原を横断したときだけでなく、エレファント島とサウスジョ-ジア島の上陸地点を隔てる嵐の白い海を渡ったときも、神がわれわれを導かれたにちがいなと思う。サウスジョージアの名もない山々や氷河を越えた三十六時間におよぶ長くつらい行軍のあいだ、ときおりわれわれは三人ではなく四人いるように思われた。>
シャクルトンは他人には何も言わなかったが、三週間後、ワースリーがたずねられもしないのに「隊長、私は歩いていたとき、もう一人一緒にいるような奇妙な感じがしたんです」と言った。のちにクリーンも、同じような奇妙な感覚があったとあかした。三人はそれぞれお互いと関係なく同じ結論に達した。もう一人別の<存在>が一緒だったと。
 (同 P.45-46)

第三章以下の200ページを、これから読むところ。

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