【読】「東大話法」とは?
安冨 歩
『原発危機と「東大話法」――傍観者の論理・欺瞞の言語』
(明石書店・2012年1月発行)
半分ほど読んだ。
著者が言うところの「東大話法」というのが、面白い。
(本書P.116より)
1. 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
2. 自分の立場の都合のよいように相手の話を解釈する。
3. 都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事する。
4. 都合のよいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す。
5. どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す。
6. 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。
7. その場で自分が立派な人だと思われることを言う。
著者があげている、上のポイント。
辛辣だが抽象的で、わかりにくいかもしれない。
本書の第3章 『「東大文化」と「東大話法」』 (P.111~)で、具体例としてあげているのが
東京大学大学院工学研究科
というところが、東日本大震災と福島第一原発事故を受けて発表した文書
「震災後の工学は何をめざすのか」 (2011年5月9日発表、11日一部改訂)
というもの。
もうひとつ、この文書に関連して「原子力国際専攻」という「不思議な名前の専攻」(著者の表現)のホームページに掲げられた
「原子力工学を学ぼうとする学生向けのメッセージ――福島第一原子力発電所事故後のビジョン」
という、「さらに厚顔無恥な文書」(これも著者の表現)が、槍玉にあげられている。
【註】この文書はいまでもネットで読むことができる。
東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 - 震災後の工学は何をめざすのか(学生向けメッセージ)
http://www.n.t.u-tokyo.ac.jp/modules/introduction/index.php?id=11
詳しいことは省くが、次の指摘には、なるほどとうなずかされる。
●いきなり「世界は」と書き始めるという感覚に驚かされる。彼らは自分が「世界」を代表しうる資格を持っている、と認識している。
<世界は、人類が地球環境と調和しつつ平和で豊かな暮らしを続けるための現実的なエネルギー源として、原子力発電の利用拡大を進め始めていました。このような中で、東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故が起こりました。我が国は、事故終息に向け最大限の力を発揮しなければなりません。また、全世界は日本が今回の大災害の経験・教訓を踏まえて世界の科学技術発展に貢献するのを注視しています。さらに、巨大複雑システムといえる福島第一原子力発電所の事故は、科学技術のみならず社会や経済と密接に関連する課題を投げかけています。> (当該文書の原文の冒頭)
●日本の原子力関係者は必ず、「我が国は……しなければなりません」などと、勝手なことを言う。高木仁三郎氏が指摘しているように、“my country...”というのは「王様の口吻」である。
●「全世界は日本が……貢献するのを注視しています」と、厚かましくも「全世界」を主語にして語る。
これ以外にも、「東大話法」として挙げているのが
「誤解を恐れずに言えば」――という「枕詞」
「もしも……だったのだとしたら、申し訳なく思います」 あるいは
「もし……であるとしたら、お詫びします」――という、謝罪ともなんともつかない言い逃れ
といったものだが、震災・原発事故後によく耳にしたことを思いだす。
いやいや、常日頃、さまざまな謝罪(弁明)会見などで耳にする物言いだ。
うっかりすると、私なども使ってしまいそうだ。
気をつけなくては。
「東大話法」というネーミングがなんとも心憎いが、原子力関係者(産官学)に特有の思考・態度、あれは何故?という疑問に答えてくれる本かもしれない。
まだ半分しか読んでいないので、なんとも評価しがたいが、図書館からでも借りて読むだけの価値はありそう。
【著者についての参考サイト】
東京大学東洋文化研究所>教員(研究部門)>安冨 歩
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/prof/yasutomi.html
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