【読】福島第一原発事故のドキュメント
年末の29日から少しずつ読み続けて、今日、ようやく読了。
2011年3月11日の大地震直後に福島第一原発で起こった大事故。
現場の吉田昌郎所長(故人)以下の所員、協力(下請)社員、応援の自衛隊員など、原発事故現場で奮闘していた人たちの記録だ。
さらに、当時の菅直人総理や、原子力安全委員会の班目春樹委員長、東電役員などの証言も、たんねんにレポートしている。
事故当時は情報が錯綜していたため、当時の新聞を見直しても事故の経緯がさっぱりわからないが、2012年11月に書かれたこの本から、詳しい経緯がわかる。
『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』
門田隆将 著 PHP研究所 2012年12月発行
380ページ 20cm 1,700円(税別)
その時、日本は“三分割"されるところだった――。
「原子炉が最大の危機を迎えたあの時、私は自分と一緒に“死んでくれる"人間の顔を思い浮かべていました」。食道癌の手術を受け、その後、脳内出血で倒れることになる吉田昌郎・福島第一原発所長(当時)は、事故から1年4か月を経て、ついに沈黙を破った。覚悟の証言をおこなった吉田前所長に続いて、現場の運転員たちは堰を切ったように真実を語り始めた。
2011年3月、暴走する原子炉。現場の人間はその時、「死の淵」に立った。それは同時に、故郷福島と日本という国の「死の淵」でもあった。このままでは故郷は壊滅し、日本は「三分割」される。
使命感と郷土愛に貫かれて壮絶な闘いを展開した男たちは、なぜ電源が喪失した放射能汚染の暗闇の中へ突入しつづけることができたのか。
「死」を覚悟した極限の場面に表われる人間の弱さと強さ、復旧への現場の執念が呼び込む「奇跡」ともいえる幸運、首相官邸の驚くべき真実……。吉田昌郎、菅直人、班目春樹、フクシマ・フィフティ、自衛隊、地元の人々など、90名以上が赤裸々に語った驚愕の真実とは。
あの時、何が起き、何を思い、人々はどう闘ったのか。ヴェールに包まれたあの未曾有の大事故を当事者たちの実名で綴った渾身のノンフィクションがついに発刊――。
(Amazonより)
以下、目次に沿って内容の概略を書いておく。
巻頭写真(大津波、中央制御室内部、3号機水素爆発、入院中の吉田昌郎)
原子炉構造図(カラー)
プロローグ P.14~21
福島第一原発原子炉1号機・2号機の当直長・伊沢郁夫
(発電所建設時に双葉町で幼年期を過ごした頃の思い出)
第1章 激震 P.22~34
地震発生直後の様子(福島第一原発所長・吉田昌郎)
第2章 大津波の襲来 P.35~55
大津波襲来時の福島第一原発の様子
第3章 緊迫の訓示 P.57~71
非常用電源喪失後(応援に駆け付けた非番の当直長・平野勝昭)
第4章 突入 P.72~82
給水ラインを作ることを決意
第5章 避難する地元民 P.83~95
元 大熊町長・志賀秀郎の回想(地震と津波)
地元記者(福島民報富岡支局長)・神野誠が見た光景(大熊町民の避難)
第6章 緊迫のテレビ会議 P.96~101
テレビ会議での東電本店とのやりとり
第7章 現地対策本部 P102~120
経済産業省副大臣(当時)・池田元久が現地対策本部長として福島へ
第8章 「俺が行く」 P.121~130
ベントを準備する現地
第9章 われを忘れた官邸 P.131~159
菅総理(当時)が自ら現地へ(菅氏の回想)
第10章 やって来た自衛隊 P.160~169
自衛隊が注水のために派遣される(自衛隊員・渡辺秀勝の回想)
第11章 原子炉建屋への突入 P.170~187
過酷な状況下で1号機のベント作業にトライ
第12章 「頼む!残ってくれ」 P.188~209
富岡町民の避難、ベントに再トライ
第13章 一号機、爆発 P.210~230
1号機原子炉建屋の爆発(3月12日午後3時36分)
第14章 行方不明四十名! P.231~243)
1号機爆発の様子(自衛隊員・岩熊真司の回想)
第15章 一緒に「死ぬ」人間とは P.244~254
3号機原子炉建屋の爆発(3月14日)、2号機の危機
現地では最悪の事態と自らの死を覚悟
第16章 官邸の驚愕と怒り P.255~265
東電「全員撤退」という誤解(東電本社の説明不足)、官邸内の混乱
第17章 死に装束 P.266~278
状況悪化により必要最小限の人員以外が避難(福島第二へ)
第18章 協力企業の闘い P.279~286
協力企業(日本原子力防護システム)・阿部芳郎の回想
第19章 決死の自衛隊 P.287~306
自衛隊ヘリによる空中からの注水(3月17日)
第20章 家族 P.307~319
東電 防災安全グループ・佐藤眞理の回想(夫との電話「おまえ、生きていたのか!」)
第21章 七千羽の折鶴 P.320~340
津波の犠牲になった東電社員・寺島祥希(享年21)の遺族へのインタビュー
第22章 運命を背負った男 P.341~357
吉田昌郎とその家族
エピローグ P.358~363
おわりに P.364~375
付録 周辺地図、福島第一発電所配置図、関連年表
福島第一の事故現場で、文字通り「死闘」していた人たちには、頭がさがる。
読んでいて涙がでてきた。
それに引きかえ、東電本社や政府(菅総理以下)の対応には、いくら情報不足だったとはいえ、首をかしげざるを得ない。
菅氏や班目氏の「弁明」もレポートされているが、彼らの説明はどうも言い訳っぽくていけない。
この本を読み、あらためて、「コントロールできなくなった原発」の怖さを、いやというほど思い知らされた。
迫真のドキュメントである。
あの事故で福島の原発立地周辺は人が住めない場所になってしまったが、今も事故の後始末は続いている。
たくさんの作業員が必死で作業を続けているはず。
それを忘れてはいけない、と、あらためて思う。
| 固定リンク
「【読】読書日誌」カテゴリの記事
- 【読】2023年5月に読んだ本(読書メーター)(2023.06.01)
- 【読】池澤夏樹=個人編集 世界文学全集(2023.05.12)
- 【読】桐野夏生の新作(2023.05.07)
- 【楽】【読】五木寛之の夜 ふたたび(2023.05.04)
- 【読】池澤夏樹『また会う日まで』読了(2023.05.01)
「こんな本を読んだ」カテゴリの記事
- 【読】2023年5月に読んだ本(読書メーター)(2023.06.01)
- 【読】桐野夏生の新作(2023.05.07)
- 【読】池澤夏樹『また会う日まで』読了(2023.05.01)
- 【読】2023年4月に読んだ本(読書メーター)(2023.05.01)
- 【読】沢木耕太郎『天路の旅人』を読む(2023.04.15)
「【震】震災日誌」カテゴリの記事
- 【震】6年後の3.11(2017.03.11)
- 【読】村上春樹、ひとやすみ(2016.05.14)
- 【読】大地動乱の時代(2016.05.08)
- 【震】地震への備え(2016.04.19)
- 【震】あの日も肌寒かった(2016.03.11)
コメント